コリンナ・ハミルトン
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※コリンナ視点です
コリンナ・ハミルトンは焦っていた。
「このままではいけませんわ……。当代一の呼び名も高い星の歌姫の妹、このわたくしのクラスが落ちこぼれたなんてことになったら、お姉様の名声に傷がついてしまいます。お姉様のおかげで国王陛下から賜った爵位にも影響が出てしまいます。それに……それに何より憧れのオルブライト様に顔向けができません!ヴィオラ奏者の代表、ひいてはクラスの代表としてわたくしが皆様を先導して差し上げなくては!そのためには何とかマーシーさんとノーラさんを説得しなくてはいけませんわね。説得してわたくしの侍女のように従っていただかなくては!」
(そうじゃないと思いますわ)
そばにいたクラスメイトの令嬢達は心の中で一斉にツッコミを入れた。
小雨が降り続く星の聖地の草原。定期演奏会は巨大な岩のステージで行われるが、非公式、不定期の演奏家は岩のステージ近くの広々とした草原で行われる。今日も主に楽器を守る為に大きな天幕が張られ、簡易的なステージが設置された。
「こんな雨の中での演奏会だなんて……」
湿気で巻きが激しくなった髪を整えながら観客用の天幕の中でコリンナ・ハミルトンは不満を漏らした。
「ですがコリンナ様、今回の楽曲は水の精霊様を讃える曲ですからこの天候は一番相応しいかと」
「それはそうですけれど……」
一緒に演奏会を見に来ていた友人の言葉は理解できるが、湿気が鬱陶しいこととは別問題だった。ドレスやリボンも湿気を含んで気分も重たい。
「あ!始まりますわ」
雨にも関わらず集まった沢山の観客たちが演奏家たちの登場に静まり返る。
「さあ、セシリー・オルコットさん。前の演奏会がビギナーズラックじゃないと証明していたけるのかしら」
コリンナ・ハミルトンはその水色の瞳をすがめて小さく呟いた。
「こんなに難しい曲だったなんて……でもなんて素晴らしい曲なの……」
コリンナは自分があのステージで演奏していないことを心底悔しいと感じていた。王都でも話題になったという前回のハープとリュラ―の演奏会はコリンナも聞きに行っていた。確かに素晴らしい演奏だったが、それはやはり星の音楽団のメンバーの技術力あってのことだと思っていた。更に言うなら、運よく精霊達の気に入られただけだとも。もしも自分が参加していても同じような現象が起こっていたのではないかとも考えていた。オルブライト伯爵令息はともかく、セシリー・オルコットにそこまでの力はなく、ただ希少な楽器の奏者であるがゆえに選ばれたのだと。
「わたくしの思い違いでしたわ……」
今回の演奏曲は三曲。内、最初の二曲は昔からある水の精霊を讃える曲をアレンジしたもの。しかし最後の曲は全く聞き覚えの無い曲だった。
「この最後の曲が、王都の作曲家が新たに作り上げた『踊る雨粒』という曲ですのね。とても可愛らしい楽曲ですけれど……」
「ええ。とても難しい曲ですわ……それをよくもあそこまで……」
セシリー・オルコットは難しい楽曲を弾きこなすどころか楽しんでいるようにも見える。他のメンバーとの息もピッタリだ。同い年の学友が自分よりもはるかに上のレベルにいる。コリンナは自分達との違いに唇をかみしめた。
「学園の授業の他にあそこまで……。クラスの発表曲も完璧に仕上げてきていらっしゃるのに……」
友人の令嬢も驚きながら演奏に聞き入っている。しかもクラス発表のハープはセシリーのメインの楽器ではないのだ。
「コリンナ様!ご覧になって!」
ハッと顔を上げたコリンナの視界いっぱいに光。
「何なんですの?これ!……雨が光ってますわ」
観客達は静かにざわめいていた。雨が光っている。奇跡のようなその光景に次第に言葉がなくなっていく。光の雨の間を水の精霊たちが飛び回りステージの周りを飛び交い始めた。それはまるで踊を踊っているようだった。
「なんて綺麗なの……」
「本当ね……ええ?!」
「どうなさいましたの?コリンナ様……って、ええ?!」
一度静まった観客達が天幕の中で再びざわつき始めた。中には強まってきた雨の中、外に出る者までいた。
ステージの前にひときわ大きな光が現れたかと思えば、その光が人の形を取り始めた。
「あれは……大精霊様ですわ……」
コリンナは呆然と目の前の光景に見入っていた。姉である星の歌姫の前にも現れたことがある、水の大精霊が自分達の目の前にいる。
「こんなに近くでお姿を見せていただけるなんて……それほどに彼らの演奏がお気に召したということですのね」
いつか自分にもと願っていたことが、やや見下していた中途入学の平民の少女に起こっている。その事実がコリンナの焦燥を駆り立てた。
草原に広がるような長い髪の女性の姿をした精霊は、演奏を終えて立ち上がりお辞儀をするメンバー達に順に微笑みかけ、最後にセシリー・オルコットとフィル・オルブライトの頭を撫でてから光の雨の中に消えて行った。静寂の戻った草原に、今度は拍手の音が響き渡る。水の大精霊の祝福を受けた五人のメンバーはこちらに向き直りお辞儀をして互いに笑い合った。
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