旅立ち
来ていただいてありがとうございます!
※前半はロージー視点です。
「お姉ちゃん、何してるの?」
デリクと一緒にお祭りを楽しんで帰って来たら、セシリーがカバンに服や身の回りのものを詰め込んでた。
「セシリー、考え直しなさい。星の音楽団はそんなに簡単な場所ではない」
お父さんもセシリーお姉ちゃんを説得して止めようとしてた。聞き捨てならない言葉を聞いたわ。
「え?お姉ちゃん星の音楽団に入るつもりなの?」
星の音楽団は王都に近い星の聖地で精霊様達に音楽を捧げるエリート集団だ。そんなのにこんな田舎の女の子が入れる訳ないのに。セシリーお姉ちゃんってこんなにバカだった?それとも私がデリクを取っちゃったからおかしくなっちゃったのかな?でもそれって私は悪くないよね。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんにはっていうより私達なんかじゃ無理だよ。お姉ちゃんがリュラ―大好きなのもいっぱい練習してるのも知ってるけど、さすがにそれは……」
おかしくなっちゃったセシリーお姉ちゃんを止めてあげないと!あまりにもむ、そう!むぼうだもん。でもお姉ちゃんはお母さん譲りの薄い灰色の髪を耳にかけながら荷造りをやめなかった。セシリーお姉ちゃんの髪の毛ってお日様に照らされると銀色っぽくなるんだよね。ちょっと羨ましい。まあ私の金髪の方がいいけど。
「さっき領主様の息子さんに勧められたの。星の聖地の音楽学校に行ってみないかって。紹介状も書いていただけることになったわ」
「領主様の息子……」
「えー?!ハーディー様?!お会いしたの?!ずるーいっ!!」
ハーディー様はこの辺り一帯を治める領主様の長男で確か今年で22歳。アクロアイト王国の貴族様でデリクよりも美男子(ここ大事!)もちろんデリクよりもお金持ち(ここもっと大事!!)
「とにかく、私はもうこの村を出るから。口出ししてこないで!」
セシリーお姉ちゃんは私達を部屋から追い出した。うーん、大丈夫かなぁ。失敗して泣いて帰ってくることにならないといいけど。お父さんも真っ青な顔で心配してる。でも大丈夫。たぶんすぐに諦めて帰って来るだろうから、その時は温かく迎えて慰めてあげようと思うんだ。私って優しい!
薄暗闇の中、言い争う声が聞こえる。
うーん、まだ朝早いのにうるさいなぁ……。昨日は演奏会。今夜は山を登って精霊の泉でまた演奏するんだからもっとゆっくり寝かせてよね……。
「本当に行くのか?」
「当たり前でしょ。いいじゃない。お父さんにはロージーがいるんだから」
気になって眠れない。そぅっとドアを開けて玄関の方を窺った。
そういえば昔からお父さんは私ばかりを可愛がってた気がする。セシリーお姉ちゃんにはお姉ちゃんなんだからしっかりしなさいってよく言ってたっけ。それにセシリーお姉ちゃんがリュラーを弾くのをあまり良く思ってなかったみたい。私がヴィオラを練習するのは笑って見てくれたのに。セシリーお姉ちゃんが何度お祭りの演奏会に出たいって言っても許してくれなかったし。未成年者が演奏会に出るには保護者の許しが必要なのにずっとお父さんがダメって言ってて、今年になってやっと許可が下りたんだっけ。なのにデリクのせいでエントリーできなかったんだよね。かわいそ……。
「お父さんは私のことが嫌いなんだから、私なんていない方がいいでしょ。これからはロージーと二人で仲良くね」
「そんなことは思ってない」
「嘘!小さい頃からずっとロージーのことばかり贔屓してきたじゃない!」
「…………」
お父さんは何も言わなくなっちゃった。図星だったのかな。実は私もうっすらそう思ってた。お父さんはセシリーお姉ちゃんに冷たかったよね。喋らないお父さんのことをセシリーお姉ちゃんは怒ったみたいでそのまま何も言わずに家を出て行っちゃった。まあ、心配することないでしょ。すぐに逃げ帰ってくるはずだもの。私は眠気に勝てずにもう一度ベッドに入って寝なおした。今日は私が主役の日だもの頑張らなくちゃ。
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リオ村から領主様のお屋敷までは馬車ならすぐだけど、歩いて行くと時間がかかる。早朝に出発して歩き続けて着いたのはお昼には少し早い時間だった。
「やあ!よく来たね。村から歩いて来たの?言ってくれれば馬車を迎えにやったのに。気が回らなくてごめんね」
領主の息子のハーディー・エクランド様はとても気さくで優しい方だった。何故か私のことをご存知で星の聖地にあるポロス学園への紹介状を書いてくれるだけじゃなく、王都へ帰るついでに学園まで連れて行ってくれると言ってくれた。
「ご厚情に感謝します。よろしくお願いいたします」
エクランド様は頭を下げた私に優しく笑いかけてくれた。
「大袈裟だなぁ!若き才能を見出すのも我々の務めなんだよ。君の活躍が今から楽しみだ!頑張ってね」
「は、はい……頑張ります」
理由はよくわからないけど、エクランド様は随分私をかってくれてるみたい。そりゃあ私はリュラ―を引くのが大好きで練習を欠かしたことは無いし、結構うまく演奏できてる自信はある。ただ、星の音楽団に入れるのは志す人達の中でもほんの一握りだ。この方の期待に添えられる可能性は低い。それになにより、この方は私の演奏を聞いたことがあるのかな?村の学校の発表会でも演奏したことはあるけど……この方がいらしていたことは無い気がするんだけど……。
「それはそうとお父君の許可はきちんと得たかな?」
「はい。反対されませんでした」
……嘘は言ってないわよね。
「そう。……じゃあ行こうか!」
「はい。お世話になります」
振り返れば少しだけ遠くなった山々。これからはもっと遠くへ行くことになるんだ。もう帰って来ないかもしれない。見納めてから私は今までに乗ったことが無い豪華な馬車に乗り込んだのだった。
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