演奏会への誘い再び
来ていただいてありがとうございます!
「なんかね、急に創作意欲が沸いたそうなのよ!見て!セシリー」
カフェのテーブルに星の音楽団のジョディ―さんが真新しい楽譜を広げた。
ジョディ―さん達とは放課後に時々練習を一緒にさせてもらっていて、いつも色々教えてもらってる。今日もその帰りでジョディ―さんにカフェに誘われたんだ。オルブライト様はお家の用事とかで急いで帰っていった。クラークさんは別チームの練習があるらしい。星の音楽団では一人が複数の演奏チームを掛け持ちする人が多い。あとは助っ人とか。やりたい楽曲によってはチーム編成を変えることも良くあることなんだそう。
「踊る雨粒」とタイトルされたその楽曲は文字通り雨の精霊様を讃える曲だった。少しだけ小さく主旋律を口ずさんでみて、雨音が弾むような可愛らしい楽曲だなって思った。
「これが作曲家の方が新しく作ってくださった曲なんですね!」
「ね?ね?いい曲でしょう?また一緒にやりましょうよ!」
「え?いいんですか?」
「勿論よ!」
「お誘い頂いてありがとうございます!嬉しいです!」
また星の音楽団の不定期演奏会に誘われた!それにまだ誰も演奏したことが無い、聞いたことが無い曲を演奏できることにワクワクしてる。
「オルブライト君にも声をかけといてね。まあ断ったりはしないと思うけど」
私も星の音楽団の人達との演奏会を断る人はポロス学園にはいないと思う。むしろそんな機会を待ち望んでる生徒は多いはず。私は偶然ジョディ―さんに見かけてもらえてラッキーだったんだと思う。でも……オルブライト様か……。
「……ハイ、ワカリマシタ」
「どうしたの?」
「い、いえ!なんでもありません!了解しました」
私は渡された二部の楽譜をカバンにしまった。正直気が重いけど、まあ教室で話しかけなければ大丈夫だよね。練習室にいる時に突撃して渡せばいいんだ。そうすれば誰かに、特にハミルトン様に咎められることは無いだろうし。
おしゃべりしていると私達の飲み物が届いた。
「あ、来たわよ。セシリーはレンレンのジュースがお気に入りなのね」
「はい。地元では飲んだことが無くて。一度気に入るとずっとそればっかりになってしまうことが多いんです」
本当は練習後でお腹が空いてたけど、もうすぐ寮の夕食の時間だから今日はケーキはお預け。ジョディ―さんはコフィーという黒い飲み物を注文していた。それはとても苦い飲み物らしく、どちらかといえば甘い物が好きな私にはちょっと手が出ない大人の飲み物だった。
「うふふ、セシリーちゃんは可愛いわねぇ」
「そういえば、この間の春の定期公演見ました!凄かったです!」
「来てくれたんだ。ありがとうね」
星の音楽団の定期公演は大きなものが年に三回。春と夏と冬。そしてその他にも日付の決まってない定期公演がいくつかある。そのうちの春の定期演奏会は春の訪れを精霊様達に感謝して行われるものだ。星の音楽団総勢二百人全員で岩のステージで合奏する壮大なもので、初めて聞いた私は圧倒されるばかりだった。
「セシリーも早く入団してきてね」
「そんな……、簡単に言わないでください。私なんてまだまだで……全然力が足りないです」
「そんなの私だって同じよ」
「ジョディ―さんはそんなことないです!いつも素敵です!」
「ふふ、ありがとう。でも私達はいつまでも向上心を忘れちゃダメだと思うの。だから私もまだまだよ」
そう言って魅惑的に片目を瞑ったジョディ―さん。やっぱり全然敵わないなって思った。もっと頑張らなくちゃ!
「もうすぐ雨の季節ね。その曲、いっぱい練習しておいてね」
「はい!頑張ります!」
私は残ったジュースを一気に飲み干した。
「あー!なにそれ!新しい楽譜?」
「あ、ゲイル来たんだ」
その夜、寮の部屋で楽譜をベッドに置いたまま授業の復讐と予習をしていたら、窓からゲイルが飛び込んできた。ベッドの上楽譜は三つ。
「何々?『踊る雨粒』?なんだぁ……僕のじゃないのかぁ。あれ?でももう一つは僕達のだ!『初夏の大風』!これたぶん聞いたことある」
「ゲイルって字も読めるんだったね。そう。雨の精霊様の曲は今度ジョディ―さん達と演奏する曲なの。もう一つは……」
私は机から立ち上がってベッドの上の楽譜を取り上げた。
「クラスで合奏する曲なんだ」
ポロス学園では二年生になると個人練習の他にクラス全員での合奏の授業も入ってくる。それを講堂で発表しあうんだって。勿論成績にも影響があって、一定レベルに達していないとクラスごと評価が落とされてしまうから、気が抜けない。
「明日からクラス練習が始まるんだよ」
「へえ!そうなんだ。こっそり聞きに行こうかなぁ。楽しみだ」
私は机に戻って勉強を再開した。
「そういえばゲイルは結構高位の精霊様なの?」
「んー?どうして?」
「精霊様の中にも地位みたいなのがあるって教わったんだ。高位の力が強い精霊様は人や獣の姿をとることがあるって聞いたよ」
「その辺は君達が決めたことだから、僕にはよくわからない。けど、僕達の中にはずっと生き続けてる大きなのが確かにいるよ。僕はまだそんなでもないかな」
ゲイルは首をかしげて考え込んだ。
「ふぅん、そうなんだ……。じゃあ精霊界ってどんなところ?色々な花が咲き乱れてるとか、どこを見ても星空だとかって言われてるよね?本当にそうなの?」
「うん。そういう所もあるよ。でも本当に色々で……上手く説明できないなぁ。……そうだ!見ればわかるから、いつか連れて行ってあげるよ!」
「ええ?!そんなことできるの?」
「うん!できるできる!!」
ゲイルは小さな子どもみたいにはしゃいでる。
「そっか。じゃあいつかね」
「うん、わかったー!」
ゲイルがあまりにも軽い口調で言うので、この時の私は特に深く考えもせずに約束を交わして、また勉強に戻ったのだった。
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