ドレスが送られてきた!
来ていただいてありがとうございます!
※フィル視点があります
「え?ロージーがポロス学園に?!入学するんですか?」
なんで?なんで?なんで?
「いや、残念ながら試験には落ちたそうだけど、まだ諦めてないみたいだったよ」
エクランド様は何故かとても楽しそうに笑ってる。エクランド様は支援者だし、ロージーに才能を見出して嬉しいんだろうか。
「試験だなんていつの間に……」
そんな手紙なんて誰からも来なかった。私も家族に手紙を出してないから当然かもしれないけど。でもせめてこちらに来てたなら知らせてくれても良かったのに。
「どうやら彼女は君が中途入学できたのなら自分も出来るって思ってるらしくてね」
「それはそうかもしれませんが……」
ロージーも名手と言われたお父さんにずっとヴィオラを教えてもらってきてるんだから、私なんかよりもずっと能力があるのかもしれない。
「やる気のある演奏家の応援や支援をするのは僕達の使命だと思ってる。もしも試験に合格するようなことがあれば、妹君にも援助を行うつもりだと知らせておこうと思ってね」
「すみません。ありがとうございます。エクランド様」
「うん。これからも頑張ってね。君には期待してるんだ」
私は戸惑いながらもお礼を言ってエクランド様との面会を終えて練習部屋に戻った。
「ロージーはデリクと婚約状態のはずなのに」
リオ村では演奏のペアを組んだ男女はよほどのことが無い限り、将来の結婚相手とみなされる慣習があるんだよね。今頃はデリクの家で花嫁修業をしてるはずなのに、ロージーったらどういうつもりなの?デリクもデリクだわ。一体二人とも何を考えているのかしら。
「オルコットさん、荷物が届いてますよ」
入学式の翌日、放課後の練習を終えて寮に帰ると寮母さんから声をかけられた。
「ありがとうございます。大きい!ん?エクライド様から?何だろう」
部屋に戻って大きな箱を開けてみるとなんとドレスが入ってた。
「ドレス……。気を遣って送ってくださったのかしら。こんな高価なものどうしよう」
入っていたカードにはダンスパーティーに来て欲しい旨が書かれていた。返品されたら悲しいとも。
「お返しするのも失礼よね。ダンスパーティーはもう始まってるし、どうしよう、これ。……綺麗な生地……かわいいデザイン……せっかくだから着るだけ着てみようかな……でも……」
薄クリーム色のふんわりしたドレスに同じ生地で出来たリボンの髪飾りも入ってる。素敵なドレスの魅力に抗えずに結局着てみることにした。
「あ、ちょっと大きい……。特にこの辺りが……」
私は胸の辺りを押えた。これからの成長に期待しよう。うん。
「ダンスパーティー、ちょっとだけ見に行ってみようかな……」
外からちょっと見るだけなら、パートナーがいなくてもいいよね。
「おお!華やか!」
明るい光に照らされて講堂の中は色様々なドレスの花が咲いてる。
「これが貴族の世界なのね……。場違い感半端ないわ。……帰ろ」
私には一生縁のない世界を垣間見た気がする。私は寮へ引き返した。
「あー!セシリー、ドレス着てるー!」
「ゲイル?」
振り向くとゲイルが空から降り立ったところで、花壇に咲いた春の花々がふわりと良い香りを立てた。
「なんか賑やかな音がしてきたから来ちゃった」
「そっか、ダンスの曲が演奏されてるから」
聞こえてくる演奏に誘われて精霊様達がちらほら集まって来てる。夕闇に光が映えてとても幻想的。
「ダンス?セシリーも誰かと踊るの?」
ゲイルはカツカツと蹄を鳴らした。
「ゲイルはダンスパーティーを知ってるんだね」
「まあ僕もそこそこ長生きだから」
精霊と私達人間の生きる時間は全然違う。精霊はほぼ永遠を生きるって言われてる。私が生まれる前から、そして私がいなくなってもゲイルの時間は続いて行くんだ。なんか不思議。
「私は踊らないよ。そういえば私、ダンスなんてワルツくらいしか知らないや。村の学校で教わって女の子同士で踊ったきりだわ」
「そっかー、ならリュラ―を弾いてよ」
「え、じゃあ着替えるから、後で部屋まで来てね」
「えー!せっかく綺麗なんだからそのまま弾いてよ!ここで!」
「今ここで?!そんな。今リュラ―持ってないよ?」
「今ここで聞きたいー」
「しょうがないなぁ」
ドレス姿で急いで寮まで戻り、リュラ―の入ったケースを持って来た。ドレスは楽器を持ち運びするには向かないね。でも曲がりなりにもゲイルは精霊様。精霊様は私達の世界を守ってくれてる存在だから、そんな精霊様の望みを聞かないわけにはいかないよね。
ああ、今夜は星月夜なんだね。星空の下、花盛りの庭園で角の生えた白馬の周りを光の精霊が飛び交ってる。なんて綺麗な光景。私、この世界に生まれて良かったな。ドレスが汚れないように気を付けて座り、リュラ―を奏で始めた。ここならダンスパーティーの喧騒も遠くて微かにしか聞こえてこない。
「ああ、セシリーの音は幸せな気持ちになるなぁ」
ゲイルに褒めてもらって精霊様達が集まって来て私もとても幸せな気持ちになった。精霊様に護られてるってきっとこういう事なんだね。
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「ずいぶん遅くなってしまったな」
講堂からはダンスパーティーの音楽やざわめきが聞こえてくる。今年も決まった婚約者のいない僕には手紙や直に誘いをかけてくる令嬢達がいたけれど、新入生でもないのだからと参加を見合わせた。表向きの理由はハープの個人練習の為。でも本当の理由は誘いたい人に声を掛けられなかったから。我ながら意気地無しだと思う。けれど彼女がダンスパーティーには参加しないと友人に話しているのを聞いてしまったら、声をかけられなくなってしまった。彼女がリュラ―を練習するのなら僕も遅れを取り戻そうと思ったんだ。彼女との合奏は楽しかったからまた一緒にやりたい。その日の為にもレベルアップが必要だ。
「少し馬車を待たせすぎてしまってる……」
僕は月のない夜空を見上げた。練習に熱が入りすぎた。もう彼女はとっくに寮に戻ってしまっていて気が付けば練習室のあるフロアには僕一人だけ。慌てて教室を出て急ぎ足で近道の庭園を突っ切ろうとしたその時、聞きなれたリュラ―の音色が聞こえてきた。思わず木陰に身を潜めてその光景を見つめた。
淡いクリーム色のドレスを身にまとった彼女がリュラ―を奏でている。周りには降りしきる花びらの中、精霊達が舞い飛んでいる。そしてひときわ目を引くのが彼女の傍らに佇む真っ白な馬。
「どうしてこんな所に馬が……いや、あれは……一角獣か」
そして恐らく高位の精霊だと思われる。
「美しい……」
まるで一枚の絵画の様だった。彼女も精霊なのではないかと思うくらいに美しかった。編入してきた頃は灰色だった髪はいつしか光沢を得て銀色に近い色に変わっている。そしてリュラ―を奏でながら精霊達に向けるその表情は僕が見たことがないとびきりの笑顔で……。悔しいような、それでもずっと見ていたいようなそんな気持ちがぐるぐると巡り、気が付けば目が離せなくなっていた。
やがて演奏会はひっそりと終わり、彼女は一角獣と何かを話しながら寮へ戻っていった。
「いつか、僕にもあんな笑顔を向けてくれるだろうか」
その夜、僕の胸の中には小さな願いが生まれた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




