なんか性格変わってる 二年生春
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星の聖地は春本番。草原や街の花壇からは咲き競うお花の良い香りが温かい風に乗ってやってくる。
本格的な春が来て私は無事二年生になれた。ポロス音楽学園の二年生からは一般教養は少なくなって、音楽の授業が多くなっていく。更に自分の専攻の楽器以外にも楽器や声楽を選ぶことになってる。私はハープを選択することにした。
「おはよう!オルコット嬢!」
え?なんで走って来るの?
「二年でも同じクラスだね」
そのようですね。仕方なく私は立ち上がった。
「……おはようございます。オルブライト様」
ノーラやマーシーと同じクラスになってまた楽しい学園生活の始まりだと思ったんだけど、一つだけ困ったことが起こってる。
「聞いて欲しい、オルコット嬢!父が転向を許可してくれたんだ!」
無邪気な笑顔で話しかけてくるのは、フィル・フィランダー・オルブライト伯爵令息。銀髪に深い青い瞳という一見冷たそうな顔つきの美少年は以前までの無表情が嘘のよう。
「第二楽器にクラヴィーアを選ぶことが条件だけど、これで堂々とハープを弾くことができる」
二年生の教室になっても私は廊下側の一番後ろの席に座ってたんだけど、わざわざ隣に座って親し気に話しかけてくる。クールな美少年の面影が無い。
「えっと、それは良かったですね。でもどうしてそれを私に?」
「同じ楽器クラス仲間じゃないか。それにあの演奏会のおかげだからだよ。大好評だったらしくて王都でも噂になったらしいんだ。それが父の耳にも入って大喜びしてる」
「王都でですか……?」
それはすごいなぁ。そんなことよりできれば教室じゃない所で話しかけて欲しかったなぁ。視線が、視線が痛い。
「ジュディーさんやクラークさんの所には出演依頼がたくさん来てるし、ハープやリュラ―が見直されて高名な作曲家が新しい曲を作ってくれることになったそうだよ」
「そうなんですか……」
ジュディーさんとクラークさんの希望が叶ったんだ。良かったなぁ……。良かったけどそろそろ話し終わって欲しい……。教室の中がざわついてて、ノーラとマーシーが教室の前の方で戸惑った顔でこっちを見てる。ああ!窓際の前の方の席に着いちゃった!二人と一緒に座ろうと思ってたのにこれじゃあ無理じゃない。教室の席は基本自由席なんだけど、新学期の一番最初の授業で席が固定されるっぽいのに、まさかこの人このままこの席に座るつもり?
「どうして下を向いたきりなんだ?」
心底不思議そうに尋ねてくるオルブライト様には全く悪意は無さそう。
「どうしてって……」
そんなの向こうで睨んでる人がいるからじゃない……。コリンナ・ハミルトン様とか。他のクラスメイト達もすっごい驚いた顔で見てるし。なんかひそひそされてるし……。ああ、ノーラとマーシーも怪訝そうな顔をしてる。
オルブライト様は二年生に進級すると同時に性格がまるで正反対に変わってしまったらしい。なんか穏やかな学園生活が遠のく予感……。
「はぁ……」
今日みたいな天気のいい日は外でランチをとろうってことになってエイミーと待ち合わせて四人でカフェテリアのテラス席に行った。
「大丈夫か?セシリー。かなり消耗してるみたいだ」
脱力して椅子に座った私をノーラが心配そうに見てくる。
「あ、うん。大丈夫」
私はレンレンのジュースを一気に飲み干した。ああ、沁みるわぁ。後でもう一杯もらってこよう。私の疲労感は特に体調が悪いわけじゃなくて、単なる気疲れだった。結局オルブライト様はあのまま私の隣の席を陣取った。その隣にハミルトン様が座って、その前にはスミス子爵令嬢様が……という感じで周りをご令嬢様達に固められてしまったのだ。一年生の頃はみんな無表情なオルブライト様を遠巻きにしてあまり近づかなかったのにどうしてこんな事に……。
「随分と仲良くなったのね」
マーシーが野菜のスープをかき混ぜながら静かに呟いた。
「え?」
お魚のフライを口に入れようとして手が止まった。仲良く?誰と?
「オルブライト様と」
「え?セシリー!オルブライト様と何かあったの?」
エイミーが目を輝かせてサラダを食べる手を止めた。
「何もないよ!うーん、仲良くなった訳じゃないと思うんだけど、前に演奏仲間だっておっしゃってたから……」
「なんだ!演奏仲間か。そうよね。一緒に演奏した仲間だものね!」
久しぶりにマーシーの笑顔を見た気がする。最近はあまり元気が無い時が多かった気がするからちょっと安心した。
「うん、だから教えてくださったんだけど、オルブライト様はクラヴィーアからハープに転向されたそうなの」
それに伴ってこれからは一緒にエルベ先生から指導を受けることになりそうなんだ。
「ええ?オルブライト様のクラヴィーアの伴奏で歌いたい子達がたくさんいるのに!」
エイミーの声楽科のクラスではオルブライト様は人気者らしい。
「クラヴィーアで歌うの?」
声楽科と器楽科で合同授業でもあるのかな?一年生の時にはなかったけど。
「ああ、そっかぁ!!セシリーは秋からの中途編入だから知らないのね。星の聖地と言えばやっぱり夏よね」
パンをちぎりながらマーシーがうっとりと空を見上げる。
「夏?星まつりのこと?」
来たことは無いけど、星の聖地の星まつりはとても盛大で楽しいと聞いたことがある。私もロージーといつか一緒に行きたいねって話していたっけ。
「ええ、そうよ。星まつりに合わせてポロス学園でも行事が行われるわ」
「夏に全員参加の発表会があるんだよ。気の合う人同士でグループを作って演奏するんだ」
ノーラはチーズの入ったハムのソテーを切り分けながら説明してくれる。この発表会はコンテストにもなってて、上位三チームは表彰もあるんだって。もちろん成績にも影響があって、星の音楽団への入団試験に必要な推薦をもらうのにも有利になるらしい。
「オルブライト様と組みたい女の子は多いわ」
園庭の花壇を見つめるマーシ―の頬が少し赤い。マーシーもオルブライト様と組みたいのかな?
「去年はみんなどんな曲を演奏したの?」
「…………」
あれ?マーシーの表情が少し険しくなったみたい。
「私はクラスの仲良しの友人達と合唱をしたわ。流星の歌ね」
「私達はヴィオラとバスの四重奏だよ。星の光のワルツって曲」
「へえ!そうなんだ。楽しそう!!」
「でも練習が大変なんだよ。特に選抜チームの練習の時期とも被ってるからね」
「あ!秋の選抜?!」
「うん。その頃にはもうメンバーが決まってるから。まあ私は次回も選ばれるか自信ないけどね」
ノーラは苦笑いしたけど私はまたみんなと演奏したい。
「次も選ばれるように一緒に頑張ろうよ、ノーラ」
「うん。そうだね。頑張ろう、セシリー、マーシー、エイミー」
私達は食後のお茶を飲みながら笑い合った。まず最初の目標は秋の選抜チームに選ばれることだわ。頑張ろう!
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