誘い
来ていただいてありがとうございます!
「そこっ!リュラ―!少し遅れてる!」
「は、はいっ!すみません」
普段はにこやかなリントン先生は指揮棒で私を指し示した。三十人の楽器の奏者、そして十人の歌い手が集合して全体練習が始まった。春の演奏会の曲目は三曲。楽譜は完璧にしてきたのに合わせて音楽を奏でるのに悪戦苦闘した。それでも何度か続けるうちにエルベ先生の言ったことの意味がわかってきた気がする。全体の音と呼吸を感じ取る……って本当にわかってるかは自信ないけど、日を追うごとにリントン先生から注意されることは少なくなっていった。
全体練習は雪解けの進んだ早春の頃まで続いた。ポロス学園の春の演奏会は、早咲きの花の蕾がほころび始めた星の聖地、といっても岩のステージじゃなくてそのすぐ下の草原に設置されている野外ステージに楽器を運び込んで行われた。演奏曲の中には、私のリュラ―のほぼソロに近いパートもあって緊張したけど、精霊様達がたくさん聞きに来てくれて、私達の周囲を飛び回ってくれてホッとした。
ほんの少しだけ気になることもあったけど演奏会は概ね大成功だったと思う。学生の演奏家なのに観客がたくさんいたことには驚いちゃった。人間からもいっぱい拍手も貰えたからすごく嬉しかった。
「おつかれ」
「はいっ!お疲れ様ですっ!」
ってあれ?
「オルブライト様……?」
「なんでそんな変な顔をしてる?」
「え?そうですか?」
私は顔を押さえた。
「ああ、苦虫をかみつぶしたみたいな顔だったよ」
だってまさかオルブライト様に話しかけられるとは思ってなかったから。てっきり近くで演奏してた打楽器の先輩だと思った。
「あ、そうだ!」
私は楽譜ケースの中からリントン先生から借りた楽譜を取り出した。どうせ話しかけた理由ってこれでしょ?全体練習の間はなかなか話しかける機会が無かったから今になっちゃったんだ。いつもコリンナ・ハミルトン様がそばにいたし。
「はいこれどうぞ!」
「え?!あ、ああ。ありがとう」
「お渡しするのが遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした。いつぞやはお送り頂いてありがとうございました」
私はわざと深ーく腰を曲げて頭を下げてお礼を言った。
「……そんなに畏まらないでよ。僕達はもう仲間だと思ってるから。今日の演奏も良かった。次の演奏会も頑張ろう」
「え?でも次もまた選ばれるとは限らないですし……」
「?大丈夫、余裕でしょ」
事も無げに言ってオルブライト様は、楽譜を手にクラヴィーアを片付けに行ってしまった。クラヴィーアは車輪付きの大きな台車に乗っていて、持ち運んでそのままで演奏できるようになってる。便利だよね。こういう時は主に声楽科の生徒達も運ぶのを手伝ってくれるんだ。
「簡単に言ってくれるよね……」
そりゃぁ数多いるクラヴィーアの奏者の中から選ばれたオルブライト様なら次も合格確実だろうけど、こっちは必死なのに。
「見たぞー!オルブライト伯爵令息様と何を喋ってたんだ?」
「女の子達、特にハミルトン様が睨んでらっしゃったわ」
楽器や楽譜を片付け終えたノーラとマーシーが駆け寄って来た。私も早くリュラ―をしまっちゃおう。
「特に何も話してないよ。ただリントン先生から借りた楽譜を渡しただけ」
「なんだ。そうなんだ。つまらないなぁ」
「そうなの。そんな睨まれるようなことじゃないわ」
ちょっと話しただけで睨むくらいなら、鍵付きの部屋にでも閉じ込めておいたらいいのにね。
「さあ!これからの休みはセシリーも、星降り亭に手伝いに来てくれるんだろう?」
「オーナーも待ってるわ」
「うん!また働かせてもらえて助かる!」
選抜チームの練習も春の演奏会も終わったから、次はまたお仕事を頑張ろう!買いたいものもあるし、貯金もしたいしね。
すっかり暖かくなって春の準備休みを目前に控えた頃。すっかり忘れてたけど、学年末の進級試験なんてものがあったんだった。もちろん普段の勉強は頑張ってたんだけど、ううん、頑張ってたからギリギリ合格ラインに辿り着けたんだ。私、エライと思う。次はもっと頑張ろう……。
コンコンッって音がして声がかかる。
「オルコットさん、お客様がおみえですよ」
女子寮の部屋で勉強疲れでベッドに突っ伏してたら、寮母さんが私を呼びに来た。
「おきゃくさま……?ってお客様?私に?」
誰だろう?私を訪ねてくる人なんて……もしかしてお父さん、とか?私はちょっとだけ髪にを梳かして整えてから階下の応接室に下りて行った。
そこで私を待っていたのは意外な人達だった。男の人と女の人の二人組。んー?見覚え無いと思うんだけど。お父さんでもロージーでもなかった。入室するなり開口一番に言われたのが
「あ、来た来た!!君がセシリー・オルコットさんだね!」
「私達と演奏しませんかー?!」
っていうちょっと変な勧誘の言葉だった。本当に誰なの?この人達って。
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