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音と呼吸にも耳を傾けて

来ていただいてありがとうございます!




「かんぱーい!」

みんなでティーカップを持ち上げた。今回の選抜チームにはノーラと私も含めて平民四人が選ばれた。これはけっこうな快挙らしくて、放課後に声楽科のエイミー、同じ器楽科のマーシー、ノーラと一緒に『おめでとう、頑張ろう会』を開いて、みんなで学園のカフェテリアでお茶とケーキでお祝いした。


「セシリー、パート練習はどう?」

エイミーがショコラのケーキを小さく切って口に運ぶ。

「うーん、いつもの授業とあまり変わらないかな。一緒に練習する人もいないし」

リュラ―やハープの奏者は星の音楽団にもそんなにいなくて、ポロス学園には私だけ。オルブライト様もできるけどクラヴィーア専攻だから一緒に練習なんてことは無い。

「リントン先生、張り切ってたなぁ。今年は今までできなかった楽曲ができるって」

ノーラがお代わりしたお茶を飲みながら、クッキーを口に放り込んだ。小さな星型のクッキーがお茶を頼むと小皿にのってついてくる。

「リュラ―の専攻は今までにもいたけど少ないし、ましてや選抜に選ばれるのは珍しいから……」

マーシーは少し元気が無いみたいで、ケーキやクッキーには手を付けずにお茶を少し飲んだだけ。


「マーシー大丈夫?練習の時にまた何か言われた?」

「ううん」

心配になって尋ねたけどマーシーは首を横に振るだけだった。

「大丈夫!今回は私が一緒だから誰にも何も言わせないよ」

ノーラが安心させるように胸を叩いた。

「おお!頼もしい!そっかノーラが一緒だもんね。良かったね、マーシー」

「うん。今回はエイミーだけじゃなくて、ノーラもセシリーも一緒だから心強いわ」

「まさか嫌がらせされてたなんて……私は声楽科だからあまり一緒にいられなくてごめんね、マーシー」

「ううん、気にしないでエイミー」

とにかくノーラがいてくれるのなら大丈夫だよね。ん?だったらどうして元気がないんだろう?体調も悪くなさそうだし、悩み事かな?私に話すくらいならもうノーラに相談してるよね。気にはなったけどそれ以上マーシーに尋ねることはしなかった。






「うん。パート練習は大丈夫そうだな。そういやオルコットは全体練習は初めてだったな」

私の演奏を聞き終わったエルベ先生は立ち上がり楽譜に丸を付けた。良かった。合格点を貰えたみたい。

「はい」

普段の授業だけじゃなく、選抜チームのパート練習もエルベ先生がみてくれてる。忙しさが倍増してるみたいで顔を出す頻度は下がってるけど、元々クラヴィーアの奏者なのに担当外の楽器まで指導してくれてありがたいな。


「いいか、大人数での演奏は楽譜通りに演奏するだけじゃ駄目だぞ。指揮者の動きをよく見て、他の奴らの呼吸と音を聞くんだ」

「はい」

ちょっとよくわからなかったけど、全体練習が始まればきっと理解できるんだと思う。リオ村にいた時、デリクの音は聞いていたつもりだったけど、呼吸までは聞いてなかった。もしかしたら音もちゃんと聞けてなかったかもしれない。私ってダメダメだったなぁ。


先生が他の生徒の所へ行った後、私はリントン先生から借りた楽譜を取り出して練習を始めた。本番で演奏することはないけど、花と川のせせらぎの曲はとても綺麗な曲で、今一番のお気に入りだった。

「そういえば、オルブライト様もこれに興味持ってたっけ。全体練習の時に渡してあげようかな。もう暗譜したし、写してあるし」

「なんかいい感じの曲弾いてるー!僕の曲じゃないけど」

「ゲイル!来てくれたんだ」

いつも通りに窓から一角の白馬が入ってきた。一人きりの練習室の中が明るく、少し手狭になった。



「別にセシリーだけでいいのに」

演奏会のことを話すとゲイルはちょっと不満そうに蹄を鳴らした。

「選抜チームに何度も選ばれれば、星の音楽団に入る近道になるんだよ」

「近道?」

「そう。星の音楽団に入るには試験を受ける必要があるんだけど、その試験を受けるのにも推薦状が必要なんだ」

「試験に推薦状かぁ。ねえ、そんなのに入らないで村に帰っておいでよ」

「村に?嫌よ」

「えー!どうして?」

「だってデリクとロージーがいるし。……それにお父さんも村の人達もみんなきっと私のこと悪く思ってるもの……」

いくらショックだったとはいえ、誰にも挨拶もせずに逃げるようにここへ来てしまったから。

「えー、そうかなぁ。そんなことないと思うけどなぁ……。でもセシリーが嫌ならしょうがないかぁ。じゃあシリーはこっちにずっといるんだね。ならちょっと挨拶してくるよ」

「挨拶?」

「うん。こっちの精霊の長に。ちょっと行ってくる」

そう言ってゲイルはやって来た時とは違って突然姿を消した。

「ゲイル?もう行っちゃったの?……」

どうやら、精霊の世界にも独自のルールがあるみたい。もうちょっといてくれてもいいのに。残された私は練習を再開した。






何だか最近教室でオルブライト様がチラチラ見てくる気がする。私は相変わらず教室の一番後ろの廊下側に座ってるんだけど、窓際から視線を感じるんだ。窓の外を見ようとすると目が合うことがある。前はそんなこと全然なかったのに。何?何か言いたいことがあるの?気味が悪いんだけど。授業が終わると速攻で教室を出て練習室へ走った。

「さあ、今日は練習の後、街へ買い物に行くんだ」

明日からは演奏会の為の全体練習が始まる。休みの日にも練習が入ってるから、買い物に行くならこのタイミングしかない。でも今日は誰とも予定が合わなかったから一人きりだ。

「セシリー、本当に一人で行くの?暗くなるの早いから気を付けてね」

エイミーに心配されたけど、実は前に考えてたご褒美のお買い物じゃないから延期できないんだ。

「うん。必要な物を買い足さないとだから、急いで行ってくる」

ちょっと人前では言いづらいんだけど下着の替えが欲しいんだよね。家から持ってきたのがくたびれてきちゃったんだ。あ、あと靴下も。とうとう穴が開いちゃったんだ。繕って使うにも限界があるし思い切って新しいのを買おうと思ってる。制服以外のあれやこれやは支給されたりとかはしないから、自分で買わないといけない。だから今回はアクセサリーを見たりは無理そうで残念。春の演奏会が終わったら、またゆっくりお店を見に行こう。というわけで一人で街へ買い物に出た。


「うう……意外とお金がかかっちゃった……品質はいいんだけど、その分お値段が張るわ……」

目当てのものを買い終わってお店を出ると辺りはもう薄暗くなってしまってた。星降り亭の前の広場を横切って寮への道を急いだ。オーナーさんにご挨拶もしたかったけど、門限もあるし今日は仕方ないね。

「オルコット嬢?」

「え?オルブライト様?」

いきなり名前を呼ばれて振り返ると、薄暗闇の中に明るい銀髪の美少年が立っていた。

「こんな所で何を?練習は?」

「ちょっと必要なものがあって急ぎで買い物に来ただけです」

サボってなんかないんだから。

「今日の分の練習はきちんと終わってます」

買い物の紙袋をぎゅっと抱きしめた。

「そうか……」


「こんな時間に女性一人では危ない」

「え?寮はもうすぐ近くですから大丈夫です」

「駄目だ」

なんとオルブライト様は私を寮まで送ってくれた。断ったんだけど、何故か妙に頑なで後ろからついて行くとまで言われてしまって仕方なく二人で並んで歩くことになった。何でこんなことに……。この人って平民を嫌ってるんじゃないの??それにしても会話もなくずっとずーっと無言で歩くのってなんの修行なの?










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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