第3話:十五の種族と魔法の原理
エドワードの秘密の研究室で、理人は椅子に座り、この世界の基本情報を聞いていた。作業台の上には、エドワードが用意した温かいハーブティーが湯気を立てている。
「まず、この世界の種族についてお話ししましょう」
エドワードは壁に掛けられた図表を指差した。そこには、様々な種族の姿が描かれていた。
「この世界には、大きく分けて十五の種族が存在します。それぞれが独自の特性を持ち、得意分野で社会に貢献しているのです」
理人はメモ帳を開き、記録を始めた。
「第一に、ヒューマン。人間族ですね。あなたの姿に最も近い種族です。魔法の才能は平均的ですが、適応力と繁殖力に優れています」
「私たちと同じ......」
「第二に、エルフ。長命で魔法の才能に優れた種族です。特に自然魔法、回復魔法を得意とします。寿命は約三百年から五百年」
「三百年......」
理人は驚いて呟いた。
「第三に、ダークエルフ。エルフの亜種ですが、闇魔法や呪術を得意とします。エルフとは対立していた歴史もありますが、今は共存しています」
「光と闇、ということですか」
「ある意味ではそうですね。第四に、ドワーフ。背は低いですが力強く、鍛冶と工学に長けています。彼らが作る武器や道具は、この世界で最高品質とされています」
理人の目が輝いた。工学に長けている種族。彼らとなら、科学的な対話ができるかもしれない。
「第五に、獣人族。猫、狼、狐、虎など、様々な獣の特徴を持つ種族の総称です。身体能力が高く、狩人や戦士として活躍しています」
「獣人族は一つの種族としてカウントされるんですね」
「ええ、亜種が多いですが、基本的な特性は共通していますから。第六に、竜人族。竜の血を引く種族で、高い戦闘能力と炎や雷の魔法を得意とします。非常に誇り高い種族です」
エドワードは次の図へと指を移した。
「第七に、天使族。翼を持ち、光魔法と聖魔法に長けています。王国では主に神官や癒し手として活動しています」
「天使......本当に存在するんですね」
「ええ。第八に、悪魔族。天使族とは対照的に、闇魔法と契約魔法を得意とします。誤解されがちですが、邪悪な種族ではありません。ただ、能力の特性上、そう見られることが多いのです」
「偏見があるんですね」
「残念ながら。第九に、妖精族。非常に小柄で、大人でも人間の子供ほどの大きさです。自然との親和性が高く、植物を操る魔法に長けています」
「小人族とは違うのですか?」
「それは第十の種族、ハーフリングです。ドワーフよりさらに小柄ですが、器用で商才に長けています。彼らの多くは商人や職人として成功しています」
理人は素早くメモを取りながら、エドワードの説明に聞き入った。
「第十一に、エレメンタル。火、水、風、土の四元素の精霊に近い存在です。それぞれの元素魔法を完璧に操ります」
「精霊......実体を持つ存在なんですか?」
「ええ、物理的な身体を持っています。ただし、その構造は他の種族とは大きく異なるようです。第十二に、アンデッド」
「アンデッド?」
理人は眉をひそめた。
「死者が蘇った存在......と思われがちですが、実際には生まれながらにして不死の特性を持つ種族です。生命力が低い代わりに、死なない身体を持っています。この王国では、彼らも市民として認められています」
「驚きました。アンデッドが社会の一員として......」
「多様性こそが、ラグナロク王国の強みなのです。第十三に、マーマン。水中での生活に適応した種族で、魚の特徴を持ちます。主に沿岸部や河川で生活していますが、魔法で陸上でも活動できます」
「人魚族......」
「第十四に、ゴーレム。石や金属、土などの無機物から成る種族です。魔法によって意識を持ち、自律的に行動します。力仕事や建築で活躍しています」
「人工生命体のような......」
「そして最後、第十五に、キメラ。複数の生物の特徴を併せ持つ種族です。個体差が非常に大きく、獅子の体に蛇の尾を持つ者、鷲の翼に虎の体を持つ者など、様々です」
エドワードは一息ついて、ティーカップを手に取った。
「これら十五の種族が、それぞれの特性を活かして共存している。それがラグナロク王国なのです」
理人はメモを見返した。十五種族、それぞれが独自の能力と文化を持つ。これは、生物学的にも社会学的にも、極めて興味深い世界だ。
「他の国はどうなっているのですか?」
「良い質問ですね」エドワードは地図を指差した「北には聖教皇国。天使族と一部のヒューマンが支配する宗教国家です。魔法至上主義で、科学的思考は完全に禁じられています」
「そこは特に危険ですね」
「ええ。東にはドラゴニア帝国。竜人族が支配する軍事国家です。力こそ正義という価値観で、常に領土拡大を狙っています。西には自由都市連合。小さな都市国家の集まりで、商業が盛んです。そして南には大森海が広がり、その先は未踏の地です」
理人は世界地図をメモに写し取った。この世界の政治構造を理解することは、今後の行動を決める上で重要だ。
「では次に、魔法についてお話ししましょう」
エドワードの表情が真剣になった。
「魔法は、この世界において最も重要な力です。そして、私が最も理解したいと思っている現象でもあります」
「どのような仕組みなのですか?」
「魔法を使うには、三つの要素が必要です。第一に、マナ。これは世界に満ちている魔力の源です」
「マナ......エネルギーの一種ですか?」
「おそらく。ただし、通常の五感では感知できません。魔法の才能がある者だけが、体内にマナを取り込み、蓄積できるのです」
理人は興味深そうに身を乗り出した。
「第二に、詠唱。魔法を発動させるための言葉です。詠唱によって、体内のマナに意思を与え、現象を引き起こします」
「つまり、プログラミングのようなものですか?命令を与えることで、マナが特定の動作をする」
「その例えは分かりやすいですね」エドワードは感心した様子で頷いた「そして第三に、魔法適性。種族や個人によって、得意な魔法の系統が異なります」
「魔法にも種類があるんですね」
「ええ。大きく分けて七つの系統があります」
エドワードは羊皮紙を取り出し、図を描き始めた。
「第一に、火魔法。炎を生み出し、操る魔法です。攻撃魔法として最もポピュラーですね」
「第二に、水魔法。水を生成し、操作する魔法。防御や治療にも使われます」
「第三に、風魔法。風を操り、飛行や遠距離攻撃に使われます」
「第四に、土魔法。大地を操り、防壁を作ったり、建築に使われたりします」
「これらが基本四元素ですね」
「その通りです。そして第五に、光魔法。回復や浄化に使われる魔法です。天使族が最も得意とします」
「第六に、闇魔法。呪術や召喚、物体の強化などに使われます。悪魔族やダークエルフが得意です」
「最後に第七、無属性魔法。四元素にも光闇にも属さない特殊な魔法です。空間魔法、時間魔法、重力魔法などがこれに含まれます」
理人は驚いた。時間魔法、空間魔法。もしそれらが実在するなら、元の世界に戻る手がかりになるかもしれない。
「時間魔法で、過去や未来に行くことは可能なのですか?」
「理論的には可能とされていますが、実際に成功した例は記録にありません。時間に干渉する魔法は、あまりにも莫大なマナを必要とするため、実質的に不可能とされています」
「そうですか......」
「ただし、空間魔法による転移は実用化されています。遠距離を瞬時に移動することができます。あなたを転移させた男も、おそらく高度な空間魔法を使ったのでしょう」
理人は考え込んだ。空間転移が可能なら、異世界間の移動も理論的にはあり得る。ということは、元の世界に戻る方法も、魔法の中にあるかもしれない。
「魔法のランクについても説明しましょう」
エドワードは続けた
「魔法使いは、能力によってランク分けされています。最下級の初級魔法使いから、中級、上級、大魔法使い、そして最上級の賢者まで」
「賢者......」
「賢者ともなれば、詠唱なしで魔法を発動できます。マナの制御が完璧なため、意思だけで魔法を操れるのです」
「訓練によってランクは上がるのですか?」
「ええ、ただし才能の差も大きい。エルフは生まれながらにして魔法の才能がありますが、ヒューマンの多くは初級止まりです」
理人は自分の手を見つめた。この体にマナはあるのだろうか。魔法を使うことはできるのだろうか。
「理人さん、試してみますか?」
「え?」
「あなたにも魔法の才能があるかどうか、簡単な測定ができます」
エドワードは棚から小さな水晶玉を取り出した。
「これに手を触れてください。マナがあれば、光ります」
理人は恐る恐る水晶に手を置いた。
数秒の沈黙。
そして、水晶がかすかに青い光を放った。
「おお!」
エドワードが驚きの声を上げた
「マナがあります!しかも、その色は......」
「この色は何を意味するのですか?」
「青は知性と分析を示す色。つまり、あなたには無属性魔法の適性がある可能性が高い」
「無属性......時間や空間の魔法?」
「そうです。ただし、無属性魔法は最も習得が難しい系統です。しかし、あなたなら......」
エドワードの目が輝いた。
「理人さん、もしかしたら、あなた自身の力で元の世界に戻る方法を見つけられるかもしれません」
理人は手を見つめた。魔法の才能。科学者である自分が、魔法を学ぶことになるとは。
だが、これも一つの可能性だ。科学と魔法。この二つを組み合わせることで、新たな道が開けるかもしれない。
「エドワードさん、魔法を学びたいです。そして、魔法の原理を科学的に解明したい」
「素晴らしい!」
エドワードは嬉しそうに笑った「では、明日から本格的に始めましょう。魔法の訓練と、科学の研究。両方をね」
理人は頷いた。異世界での新しい生活。それは、困難に満ちているだろう。だが同時に、これほど刺激的な研究環境もない。
科学が異端とされる世界で、科学と魔法の融合を目指す。
蒼葉理人の挑戦が、今、始まろうとしていた。
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