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「いや……お騒がせをいたしました、エルネスタさん」
さっさといなくなってしまったアンナに代わり、自警団の男が謝罪をしてくる。それに少女――エルネスタは、アンナに向けたのとはまた少し違うパターンの笑みで応えた。
「いえ……今のは?」
「ああ、アンドレア・アマリスという……町はずれに工房を構えている人間で、今のバイオリンっていうよくわからん楽器をつくってる変わりもんがおるんですが、それの、まぁ弟子ですかな」
「へぇ、そんな方がいるのですか」
「あ、けどアンドレアさんはもう亡くなってるっすよ。ニコラさんも興味ないし、てっきりもう閉めたのかと思ってたけど、アンナのやつが続けてたんすね〜」
「あいつはシルワ族だからな。他に行き場もないんだろ。っと、失礼しました。今のようなこともありますから、やはり我々が同行を……エルネスタさん?」
自警団の二人が会話をしているうちに、エルネスタの表情には、変化が生じていた。笑ってはいるが、先ほどまでの人当たりのいい笑みとは違う、どこか獲物を見つけた獣を思わせる、そんな鋭さを孕んだ笑み。
「……やっと、見つけた」
そうして発せられた呟きは、二人の耳には届かなかった。
「あの……エルネスタさん? ……怒っておられますか?」
「ああ、いいえ、そんなことはありませんよ。むしろ、思わぬ刺激になりました。町に行くのはやめにします。少し集中したいので、部屋に人が近づかないよう、手配していただけますか?」
「は……はっ! では、我らが見張りを!」
「その申し出はありがたいですが、扉の前に立たれたりすると、気配がして、やはり集中力が削がれます。音楽のためと思って、どうか私を一人にしてください」
天下の音学院の人間にそんなふうに言われては納得する以外の選択肢はない。
二人が壊れた玩具のように何度も頷く姿に満足したエルネスタは、アンナが去っていった方向へと視線を投げた。