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1-1

 春らしい、風の強い朝。青空を漂う雲が、瞬く間に流されていく。


 そして、それと張り合うかのような、威勢のいい声が響く。


「さぁー、松の次は上物の楓だ! あい、サンゴー出た。ヨンマル! ヨンマルヨンマル、ヨンニー! ヨンニーヨンニーヨンニー、さぁないか、ヨンゴー出た! ヨンゴーヨンゴーヨンゴー……」


 頭上の爽やかな空が嘘のような熱気が、この地上には漂っている。


 職人の町、クレモニア。その名物の一つである木材の競りが今、町の広場で行われているのだ。


 競り人の仕切りのもと、屈強な男たちがハンドサインで買い値を示していく。


 彼らはみな、腕に覚えのある職人たちだ。けれど、その実力を発揮するためには、相応の材料が必要になる。


 とはいえ、金に糸目をつけない買い方をすれば、商売として成り立たなくなる。


 少しでも安く、少しでも良いものを。


 競りの場はそうした男たちの目論みが渦巻く場であり、自然とその熱は高まっていく。


 そして男たちは、競り人に指揮されるように、一つの群れと化していく。


 その中から、一体誰が頭角を現すのか。


 遠巻きに眺める見物人たちは、それを楽しみにしているのだ。


 と、男たちの塊の中に一つ、小柄な影が、ちょろちょろと動き回っている。


 どうにか前に出ようとしてあきらめ、それから横から回り込もうとしてあきらめ、結局後ろへとひきさがっていく。


 その様子はまるで、猛牛の群れに迷い込んだ子ウサギのようにさえ見えた。


「あうう……や、やっぱり無理だ……」


 泣きそうな声を出しながら、その人物は集団から脱出する。とたんに、周りの見物人たちがざわついた。


 ハッとして頭に手をやる。目深にかぶっていたはずのフードが、はずれていた。


 そこにあったのは気弱げな少女の顔。ただ、見物人たちが驚いたのはそこではない。


 肩まで伸びた艶やかな黒髪に、この辺りでは見かけない褐色の肌。それは、彼女の出身を如実に物語っていた。


「シルワ族……?」


 ふと、取り巻く人々の中からそんな言葉が漏れる。


 少女はビクリ、と体を震わせ、フードをかぶり直すと、すぐさま走り出し、あっという間に広場から去っていってしまった。

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