真冬の体育館で災難
ある真冬の日、学校で起きた出来事である。
先生「今日は外で持久走をします。」
体育科の先生は事前にこう言い放った。
僕は荷物を減らす目的で、
水筒以外の荷物を教室へ置いたまま、
体操服に着替えて
早々に集合場所の外へと向かった。
準備運動を終え、これまで着ていた長ジャージを
脱ぎ、半パン半袖姿で走らなければならない。
男子も女子も長ジャージを脱ぎ、
「寒い、寒い」と声が飛び交う中準備が整い、
いよいよ走り始める所であった。
ところが、突然雨と雪が、周辺で散らつき始めた。
先生「雨が降ってきたので、
今日は体育館で男女混合ドッヂボールをやります。」
僕は体育が苦手で、特にドッヂボールは
嫌いだった為、ショックだった。
ここで先生から地獄のような一言が追加された。
先生「体育館シューズ忘れの男子は裸足で。」
体育館内では、体育館用のシューズが必要
なのである。
僕はシューズを教室に置いてきてしまい、
手元にはない。
このままだと裸足にさせられ、
女子に裸足を見られるのも嫌だったので、
先生に相談する。
僕「先生が外と言ったので、シューズを教室置いてきました。取りに行っても良いですか..?」
先生「あかん。準備が悪いのがあかんねん裸足や」
先生「そんな裸足嫌やったら見学で良いですよ。
靴下脱がないなら授業の点数はありません。」
理不尽にもこの瞬間靴下を脱がされる事が確定した。
雨足がどんどん強まり、急いで体育館に向かう。
体育館前の下駄箱に到着した。
周りの人達が体育館シューズに履き替える。
察しが良いのか、運が良いのか
皆何故かシューズを持っていた。
僕は靴に加え、これまで履いていた
黒色の靴下も脱ぐ必要がある。
遂に靴下とお別れだ。
先生が見張る中、僕は靴下を脱ぎ裸足になる準備を始める。
当たり前だが、先に靴を脱いだ。
靴下を履いているものの既に震えるほど寒かった。
ただ、靴下は体育館内では履けない。
仕方なく、靴下も脱ぐ。
この日の最高気温は2℃〜4℃前後であった。
靴下を履いていたいという強い気持ちを堪え、
ゆっくり、黒い靴下を脱いだ。
脱ぎ終えた後、
脱いだ靴下を他の人に見られない様
こっそりと靴の中にしまう。
そして、嫌々惨めな裸足姿になった。
先生に裸足になったか、足の指先を特に見られる。
先生「靴下はどこ行ってん?」
僕「靴の中です。」
先生「脱いだことが分かるように靴下出して。
裸足かどうか確認します。」
足を見れば素足なので分かるのに、
靴下まで確認される。
体育の授業では、安全の為に、
毎回手の爪を切っているか確認される。
先生「ついでに裸足の人は足の爪もチェックします。」
僕以外にも数名の男子は体育館シューズを忘れていた。
皆んな左手に靴、右手に靴下を持って端に並ぶ。
自分の順番が来た。
先生「足見せて。裸足やな。片足ずつしっかり上げて爪見して。ちゃんと切ってるな。靴と靴下は?
靴も靴下も黒色やな。靴はそのまま下駄箱に、裸足の状態が分かるように、靴の上に見やすいように靴下置いといて。」
過去に何か事故でもあったのだろうか。
意地でも靴下を脱がせて裸足にさせてくる。
先生「半パンやから寒いやろな。ちゃんと準備はして来いよ。靴下履いてたら滑って危ないから脱がした、今日は君ら裸足やから、足踏まれないように気をつけろよ。」
女子友達から「男子裸足?寒くない?可哀想...」
「◯◯君、足意外と大きいね。」
「足細い。笑笑」
友達からも「俺シューズあるからあったかいわー」
皆んな言いたい放題で、言い返す術もなかった。
靴下を脱ぎ、裸足となり、体育館に入った。
床は氷のように冷たく、僕の足は震え出す。
あまりの寒さから足先を浮かせて
ペンギン歩きをする。
先生「だらしない歩き方するな。
指先ちゃんと地面に付けて歩け。危ないやろが。
裸足やと変な事してると余計に目立つ。」
本当に辛かったが、足の指先を地面に付けた。
他の男子も一斉に床に足の裏をベッタリ付け、
パタパタと音を立てて歩いていた。
我慢して歩くと、床がザラザラしており、
少し心地良い。
恐らく裸足の状態で砂やホコリを踏んでいる。
靴下を履いている時と脱いでいる時の
感じ方が違い、特別寒い。
ガタガタと震え、耐えれるか不安だ。
笛の合図と共にドッジボールが始まった。
裸足の本当の地獄はここからだ。
先生の忠告通り足を踏まれるのである。
とにかく痛い。
足の小指の先端を強く踏まれ、咄嗟に
「痛っ!」と普段出ることのない甲高い、
非常に恥ずかしい声が出た。
靴を履いた人からは「キュッ、キュ」と聞こえ、
自分の足は「ペタペタ、バタバタ」と鳴る。
足音で裸足か否か分かってしまう。
最悪な事に、近くに僕の好きな人がいる。
その子は普段見ることのできない
冬の男子の裸足姿を凝視しているようだ。
女子は凍えている裸足の男子を横目で見ていた。
隠れていたが、好きな人と目が会い、
遂に僕の素足は目撃されてしまった。
裸足にさせられておよそ10分程経過した。
授業はまだ30分近くも残っている。
後、30分も裸足をさらけ出す必要がある。
体育館シューズが無い男子は
裸足で体育館という巨大冷蔵庫に放り込まれる。
僕の近くにも裸足になった男子が数人おり、
全員ブルブルと足は震え、
太い鳥肌をピンピンに立てていた。
思春期ながら静かに寒さに、
辛そうに耐えているが、
僕もその中の1人。
膝より下は何も履いておらず、
雨と雪の降る中薄手のハーフパンツ一枚に頼る。
震えが酷くなる。
裸足になった男子は
皆一度は足を踏まれ、痛みを体験している。
皆んな男子ながら細々とした足で
寒さや痛みを必死に我慢しているが、
先生が居なくなったことと、
余りの寒さから勝手に靴下を履き始める男子がいた。
僕は見つかって減点が嫌なので、辛い裸足を選ぶ。
女子もシューズ忘れが居たが、
何かと理由をつけて長い靴下を履いたまま、
暖かそうに過ごし、
男子が辛そうに、恥ずかしそうに
耐えている姿を見ていた。
先生が換気のために体育館下の窓を開けてきた。
裸足なので、もろに風を受ける。
もう皆んな限界に近いが、
冷たい風が僕たちシューズ忘れを更にいじめる。
裸足の僕たち、無防備な状態で
冷たい風を直で感じる。
これまで体験したことのない、寒さ。
本当に寒い。
優等生でもシューズを忘れた男子は即裸足。
靴下すらも脱がされ、何も無い状態で
汚い体育館に素足をつける羽目になる。
靴下を履きたいが、授業点は減らされ、
他のシューズ忘れの男子も靴下がない状態で
震わせながら必死に耐えているので、裏切れない。
このまま裸足は継続だ。
靴下なしの裸足となった者で一丸となって、
皆んなでガタガタ震える。
裏切る者も増える中、
ちらほら靴下を履いていない男子が未だにいて、
中には本当に辛そうにしている人もいた。
裸足が減り、一緒に震える人が減っていく。
僕の友達は裸足で耐えている。
靴下を脱ぐと意外と足が大きかったり、
足の指が長かったり短かったり、
寒さで青ざめてしまっていたが、
皆んなの素足には個性があった。
お互いに裸足の状態を監視する。
女子が遠くからこちらを見ている。
異性の何も履いていない下半身姿に興味津々の
ようで、棒のように立ち尽くす男子を見ている。
そうこうしているとまた、
裸足無防備状態の僕の足は踏まれる。
「痛ぁいぃ、ゔっ、ぅ」激しい痛みが再び襲う。
今度は真ん中辺りを女子に踏まれたようだ。
僕は普通の人より若干足が大きいため、
靴が無いと踏まれやすい。
靴下を脱がされ、裸足で襲撃に耐える。
何度も何度も襲われ、
爪は割れ、皮膚は剥がれて、赤く腫れ上がる。
トラウマ級の痛みに、冷や汗が流れ、
次いつ来るか分からない恐怖に余計素足は震える。
靴下無しの極寒の中、20分が経過した。
これまで履いていた黒い靴下が恋しい。
裸足仲間が減り、勝手に靴下を履く人が増える。
ガタガタと震える仲間がおらず、
取り残された様で恥ずかしい。
ただ後10分頑張れば、靴下と再会だ。
無意識に小指に力が入り、膝に足の裏を擦り付け、
身体が摩擦で温めようとしている。
雪の降る中寒さから必死になる。
しかし、徐々に端の小指の方から感覚が無くなり、
痛みを感じなくなってきた。
そして、不思議な事に強い眠気が僕を襲う。
寒さも痛みも恥ずかしさも、そもそも
裸足にさせられたこと自体を忘れ、凄く眠い。
身体が浮いているような感覚だ。
低体温症か、よく分からないが、
このままだとまずいと思い、
焦るうちに、チャイムが鳴る。
皆んな寒さから解放され、
靴下を履ける。
周りの男子も震えながら裸足姿で耐えた。
自分の素足を40分近く友達や女子達に公開した。
ゆっくり転けないように歩き、下駄箱に戻る。
汚れて冷たくなった僕の足。
知らぬ間にアリ?を踏んだようで、
足の裏は汚い。
ブルブル震え、力が入らない。
プールの地獄シャワーよりも、本気で辛い。
先生「裸足の人はそのまま、
玄関の下駄箱で靴下履いて。
ここで履いたら時間かかるから。
勝手に履いてたら呼び出すから。
自分らの過ちちゃんと反省しろ。」
今日は特段機嫌が悪い先生。
体育館から廊下の下駄箱までは距離があり、
砂場を歩く必要がある。
周りは運動靴を履き、自分は裸足。
雪が降っており、足の感覚は無い。
ようやく下駄箱についた。
足の裏のゴミを落とす。
そして右足、左足と靴下を履く。
男子が裸足になっていたが、裸足の時間も終わり、
女子は少し残念そうだった。
寒かったが、
黒い僕の靴下はほんのり暖かく感じられた。
女子「◯◯君、足先めっちゃ青い。寒そう。」
「冷たそう。よく裸足で耐えれたね。偉い。」
「寒いのによく耐えたね、、。辛そう」
「さっき踏んじゃった。ごめんね。」
「足の裏真っ黒じゃん。うわ、」
申し訳ないが、女子に苛立ってしまう。
裸足の苦労も知らずに、
長いソックス姿でこちらを見てくる
余裕ぶりに腹が立ってしまう。
この後、徐々に体力は回復したものの、
お腹を下し、散々な目にあった。
女子からの冷たい目線、忘れる事は無いであろう。
もう2度と、裸足にならないと誓った。