第1章 『デュエルコロッセオ』~異世界、スキル、そしてゲーム~ その6
「ッシャァァッ! 金貨だァァァッ!」
うぇぇっ⁉ な、な、何だ⁉
「あたしんだよ! あたしのもんだからね!」
いつの間にかリオンが、よつんばいになって金貨を口にくわえている。怖っ! いったいどうしたんだよ? 赤みがかったツインテールが、まるで角のように逆立っているし、目には炎が宿っている!
「誰も取らないから、落ち着きなよ、リオンちゃん」
「はしたないですわよ、リオン」
ユイちゃんとセリカにとがめられても、リオンはおかまいなしだ。金貨をたわわな胸の谷間にはさみこみ、けん制するかのごとく、おれたちをにらみつける。
「あんたたち、もしあたしの金貨に指一本でも触れてみなさいよ⁉ そんときゃその指バッキバキに折ったるからね!」
めちゃくちゃ怖っ! 疫病神っていうか、もうただの鬼じゃんか。いや、守銭奴って言ったほうがいいのか? でも、なんでこいつこんなに金にがめついんだ?
「とにかくこれはあたしんだからね! キャーッ、金貨ちゃーん! ずっしり重くってふところがあったかいわぁ。換金したら、10ディル、いいえ、20ディルはするんじゃないのかしら? キャーッ、キャーッ、ウヒャーッ! ……あ」
ようやくおれたちからの冷たい視線を感じたのだろう。疫病神もとい守銭奴は、フーッと大きく深呼吸して、雪奈さんに向きなおった。
「これであなたのスキルの偉大さがわかったかしら? 雪奈、あなたのスキルを使えば、他の冒険者たちを危険な目にさらさず、レベルを上げて鍛えることができるの。そして何より、あなたのスキルがあれば、ノーリスクで金貨をたんまりもうけることができるってわけよ!」
またしても鼻息荒くなる守銭奴だったが、雪奈さんはあんまりピンときてないようだ。まぁ正直おれもこの世界のことはよくわからんが、この三女神が言ってたような、世界を変えてしまうほどのスキルとは到底思えないんだけどなぁ。
「それじゃあわたしのスキルは、サポートに特化してるってことかしら? それで、冒険者パーティーをどんどん育てて、魔王を倒せばいいの?」
雪奈さんの質問に、リオンは首を横に振った。
「違うわ。あなたたちの目的はズバリ! この世界で100万ディル稼ぐことよ!」
ディル? ディルってなんだ?
「ディルって、この世界のお金の単位のこと?」
雪奈さんが再び聞く。リオンは今度は首を縦に振った。
「そうよ。さすが雪奈、飲みこみが早くて助かるわ。あんたたちの目的は、魔王を倒すことでも、世界を救うことでもない。なんとしてでも100万ディル稼いで、あたしの借金を返済することなのよ!」
「えっ? 借金?」
おれと雪奈さんが同時に聞き返す。リオンがあからさまに目をそらした。
「おい、今借金って言ったよな? どういうことだよ? まさかお前、どっかから借金してるから、おれたちを働かせて、その金で返済しようとか、そんなこと考えてるんじゃ」
「スリープ!」
リオンのさけびとともに、闇のとばりが世界を包んだ。おれは、そして多分雪奈さんも、完全に意識を失ってしまった……。
「もう、リオンちゃんが余計なこと言うから、バレちゃいそうになったじゃん」
「うっさいわね、しかたないでしょ、金貨で興奮してたんだから」
「リオン、はしたなくってよ」
「うっさいうっさい! 別にいいでしょ、ちゃんと記憶は消したんだから。それに、あたしの見込み通り、雪奈のスキルはすごかったでしょ」
「確かにそうですわね。雪奈様の霊体化と物体化を使えば、今まで召喚した者たちよりかは楽に借金を返済できそうですわね」
「借金返したら、ユイ、お菓子屋さん行きたいなぁ。お菓子屋さん丸ごと買って、丸ごと食べちゃうの!」
「まったく、ユイもはしたないですわね。それよりわたくしは、殿方たちと素敵なアバンチュールを……」
「あんたたちも、あたしとどっこいどっこいじゃないの……」