第1章 『デュエルコロッセオ』~異世界、スキル、そしてゲーム~ その5
ヴォンッという重低音とともに、いきなり目の前に青い画面が出現した。思わずあとずさるおれだが、雪奈さんは驚いた様子もなく、その画面をじっと見ている。どうやらこれも、例の異世界転移ってやつじゃ常識なようだ。
「いったいどうなってんだよ、これ。もしかしてこれも、スキルってやつか?」
「……あんた、ホントになんにも知らないみたいね。まさか、ステータス画面すら知らないなんて。ホントに現代人?」
疫病神に言われたくねぇよ。ていうかお前らは現代人どころか、全然違う世界の住民だろうが。
「ステータス画面ってのは、その人のいろんなパラメーターを、わかりやすいようにまとめたものなの。ボードゲームで言えば、個別の個人ボードみたいなものよ」
雪奈さんが優しく教えてくれた。さすが女神様、どこかの疫病神とは大違いだぜ。
「個人ボードなら知ってますよ。なんでしたっけ、前に雪奈さんとプレイした、ドラゴンの卵を盗んでくるゲームで使いましたよね?」
「『イントゥ・ザ・ストーム』でしょ。そうそう、あれで出てきた個人ボードがわかりやすいかも。多田野君はあのとき、シーフを選んでたでしょう? 移動力と回避率が高いけど、HPと防御力が低いから、ドラゴンの攻撃を受けたらすぐやられちゃうっていう」
「雪奈さんはパラディンでしたよね。攻撃力と防御力が高いから、結局ドラゴンをやっつけて卵も全部ゲットして……」
「多田野君は、卵を一個だけ持ってダッシュで逃げてたもんね」
くすくす笑う雪奈さん。でも、バカにしてるんじゃなくて、なんて言うか、親しみがある笑いっていうか……。こういうところも、あの疫病神とは大違いなんだよな。
「あんたさっきから、失礼なことばっかり考えてるでしょ? チラチラこっち見て、キモい顔してさ」
「はぁっ? だ、誰がキモいって」
「あんたよ、あんた! あんた以外にいないでしょうが。雪奈もそんなおまけ野郎と話しちゃダメよ、あたしたちの救世主は雪奈しかいないんだから」
「おい、誰がおまけ野郎だ! お前のほうが失礼なこと言ってるだろ!」
ヒートアップするおれたちの間に、セリカが割って入ってきた。コホンッとせきばらいしてから、青いステータス画面を指さす。
「リオン、おしゃべりはそのくらいにしてください。それよりおま……多田野さんのステータスについて説明しましょう」
あのー、セリカさん? 今、さらっとおまけ野郎って言おうとしませんでしたか? やっぱりあなた、おれのことすっごく嫌ってるんじゃ……。
「まずはこのステータス画面の見方から。ご安心ください、非常にシンプルな造りになっておりますから、おまけ野郎でも十分理解できると思われます。」
うん、完全におまけ野郎って言っちゃったよね。ひどい、リオンよりさらにひどいよ。さらっとおまけ野郎っていうなんて……。だが、そんなおれの嘆きを完全に無視して、セリカがステータスについて説明していく。それによると、おれの今のステータスはこんな風になるらしい。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
名前 :多田野 勝利
種族 :人間
職業 :アルバイト店員
レベル:2
スキル:???
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確かに、想像していたよりは項目少ないし、これならおまけ野郎のおれでもよくわかるな。あれ、でもなんだこの、『???』って……。
「ほら、レベルが上がってるでしょ。もともとあんたはレベル1だったけど、さっきのオークとの戦闘で、レベルが2に上がったのよ。しかも、霊体のときに負ったケガやダメージは物体化で元通り。これがどれくらいすごいことか、わかる? ……まぁでも、雪奈のスキルのすごいところは、このあとなんだけどね」
リオンがにやりとする。あの、おれのステータスの説明はないんですか?
「雪奈、この『デュエルコロッセオ』だと、勝ったほうにはごほうびがあるのよね?」
唐突に聞かれて、雪奈さんは困惑しながらも答えた。
「えっ? うん、勝ったほうは、試合内容によって金貨をもらえるのよね。それで、その金貨を一番たくさん得たプレイヤーが勝ちっていう」
「その金貨の量、わかる?」
リオンが鼻息荒く問いかけた。目が血走ってる。こいつ、なにをそんなに興奮してるんだよ。
「うん、さっきの試合内容だと、多分金貨二枚分だと思うけど……」
「それを思い浮かべて、物体化って叫んでみて」
まだよくわかっていない様子で、雪奈さんは「物体化」と唱えた。とたんにチャリリーンッと、金属音があたりにひびいた。夜空の星とは別に、明らかに輝く物が二枚落ちている。金貨だ! そのとたん……。