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プロローグ 『クラッシュ』~ボドゲカフェにトラックが⁉~

「お客さん、来ないっすね」


 サイコロを転がしながら、おれはちらりと店長を見た。サイコロの目は見なくてもわかる。どうせ1か2だろう。おれみたいな底辺にはお似合いだ。それに比べて……。


「そりゃそうよ。だってまだ5時にもなってないでしょ。平日なんだし、忙しくなるのはこれからよ」


 店長の雪奈さんがはにかんだ。さらさらとした黒いショートヘアーがゆれ、窓から夕陽がその横顔に当たる。あぁ、輝いてる、本当に。


「それより少しはゲーム覚えた?」


 軽く伸びをして、雪奈さんが近づいてくる。大きな目に吸いこまれてしまいそうだ。なんて考えていたおれの額を、白くて細い指が軽くつついた。


「もう、まだバイト始まったばかりなのに、寝ないでよね」


 我に返って、おれはハ、ハハ、と、変な愛想笑いをした。クソッ、これだからおれは自分がきらいなんだ。なんでもっと気が利いた返しができないんだ……と、ドアの鈴の音がなった。


「ほら、お客さんよ。ちゃんとご案内してあげてね」


 雪奈さんにポンポンッと肩をたたかれた。絶対変な表情になっているだろう。顔を見られないようにそっぽを向いて、おれは入口へと向かった。


「いらっしゃいま……せ……」


 それ以上言葉が出てこなかった。そりゃそうだろう、目の前にアイドル並みにかわいい娘が、三人も立っていたんだから。どぎまぎして、おれはなにも言えずに目をそらした。とはいえやっぱり気になるから、チラチラと横目で三人を見る。


――もしかして、本物のアイドルグループか――


 一番背が高い娘は、すらりとした美脚なのに出るところはしっかり出て、グラビアモデル顔負けのスタイルだ。髪も深い海のようなダークブルーで、緋色の目は神秘的な輝きを放っている。それなのにおっとり系のメイクだから、いわゆるギャップ萌えってやつを感じる。

 一番背が低い娘は、まるでアニメの元気っ娘をそのまま三次元に持ってきたかのような、碧眼金髪の美少女だ。くりくりした目とふにふにほっぺがかわいらしい。ミニスカスパッツなのも高得点だ。

 そして、真ん中の娘は……。


「多田野君、ちゃんと席に案内して!」

「さっさと案内しなさいよ!」


 ……ツンデレタイプか。いや、こりゃツンツンタイプだな。そりゃ、三人の中で一番の美人さ。赤みがかったツインテールに、気の強そうな大きな目。ぷっくりしたくちびると、かわいさだけで言えば一番だ。だけど、これじゃあ……な。


「こっちの席に案内して、オーダーもちゃんと聞いてよ!」


 心なしか、雪奈さんまでとげとげしてるし、クソ、疫病神が……。


「はい、それじゃあこちらの席へどうぞ。ワンドリンクがついてきますので、お好きなお飲み物を選んでください。あ、それと時間は、フリータイム……」

「ユイ、これやりたい!」


 ふにふにほっぺの元気っ娘が、さっそくゲームを持ってきた。華やかなお店と金貨の山が描かれている。『クラッシュ』というタイトルのボードゲームだが、おれも初めて見るやつだったので、雪奈さんをチラ見する。


――げっ、雪奈さん、めっちゃ怒ってる――


 むすっと口をとがらせて、そっぽを向く雪奈さんだが、それもまたかわいらしい。……っと、こんなこと考えてる場合じゃない。知らないゲームは、とりあえず急いで説明書読んで、インストだけでも準備しないと……。


「あれ?」


 元気っ娘が、すでにふたを開けてゲームのボードを準備している。もしかしてこのゲーム知ってるのか?


「ねぇ、あたしたちまだゲームの説明聞いてないんだけど。あんた店員でしょ? ちゃんと説明してよ」


 うっ、またあのツンツン疫病神だ。わかってるよ、今説明しようとしてたんだからさ。チッ、とにかく説明書を……。


「そんなのろまじゃ、ほら、ユイがやらかしちゃうわよ」


 ユイちゃんが、ボードにお店型のコマを置いて、それに別の黒いコマをぶつけて遊んでいる。さすが元気っ娘、やることがいちいちかわいい。って、そんなこと考えてる場合じゃないな。だってこの子、すげぇ音出してぶつけてんだもん。ていうか店が壊れるぜ、こんな……。


「ドガシャァァァンッ!!!」


 そうそう、まるでトラックが突っ込んでくるかのような、ヤバい音。って、うぇぇっ!?


 ユイちゃんが持っていた黒いトラックが、目にずっと焼きついたまま、おれはそのヤバい音に飲みこまれていった……。

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