表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

旅立ち(4)

 「どういうことですか?」

 僕はドーリアに尋ねた。

 亡くなった兄を苦しめている原因が、この憎たらしい妖精だって?

 ただ、数々の暴言に対する仕返しをするには好都合だとも思った。

 「その通りじゃ。しかしだ、兄を救うには、お主の力とレモンの力が必要なのだ。つまり、2人は協力する必要がある」

 どうやら、この妖精を倒す、とかそういう簡単な話じゃないようだ。ちくしょう。

 「どういうことなのか詳しく説明したいところじゃが、もうすぐ夜が明けてしまう。あとは任せたぞ、レモン」

 「はあ〜ぁ。何でこんな面倒なことになっちゃったかなぁ」

 レモンが眉間にしわを寄せてそう言った。

 僕は結局、何も理解できなかった。

 「それで、僕はどうすればいいんでしょうか?」

 ドーリアンは優しい笑顔を見せ、僕の頭を撫でた。

 「頑張るのじゃぞ。青年」

 僕の意識が急に遠のき、体が地面に崩れ落ちた。そして、目の前が真っ暗になった。


 真っ暗闇の中に、ぼんやりとした青い光が見える。僕はゆっくりと光に近づいた。そこには、うずくまって座る男の子がいた。上半身は裸で、ズボンだけ履き、顔を膝の間に隠している。背中には「死ね」「キモい」「くさい」の文字がマジックで書かれて、ところどころに赤い傷や青いシミができている。

 「兄貴…」

 僕が小さな声で言うと、兄はゆっくりと顔を上げた。表情はうつろだった。僕と目が合うと、じっと見つめ、優しくほほ笑んだ。

 「風馬。学校は順調か?」

 兄はいつだって、僕のことを心配してくれた。自分がどんなに苦しい状況であってもだ。両親に先立たれ、兄は親の代わりになろうとしていた。

 僕は兄が自殺した日、兄を救えなかった自分を責めた。当時の僕は中学生で、兄に優しい言葉を一つもかけてあげれなかった。兄がいじめられるのは、兄が弱いからだと、軽蔑していた。

 だけど、それは僕の大きな間違いだった。いじめられてもいい理由なんてない。兄を失って、ようやく気づいた。どれほどの苦しみによって兄は押し潰されたのか、想像に絶する。

 「兄貴、もう遅いかもしれないけど、俺にできることがあったら、言ってほしい」

 兄は、僕の頬を優しくなでて、もう一度ほほえんだ。

 兄が何かを言おうとした瞬間、目の前が眩しい光で包まれた。

 「兄貴!兄貴!!」

 僕は大きな声で叫んだ。そしてまた、意識が遠のいた。


 目が覚めると、僕は自宅の布団で寝ていた。テーブルの上には空のビール缶が3本置いてある。

 長い夢のようだった。体も心もずっしりと重たい。兄の表情が鮮明に脳裏に残っている。

 僕はもう一度布団に倒れて、天井を見上げた。

 きっと、目の前にフワフワと浮かぶ妖精が見えるのは、二日酔いのせいだろう。うん、そうに違いない。

 「何で1人で頷いてんの。気色わる」

 妖精がしゃべった。

 僕はもう、何も驚かなかった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ