旅立ち(3)
「でもさぁ、この顔を見せたおかげで、コイツを簡単にここまで連れて来れたじゃん? 人間って謎に弱いからね。好奇心でホイホイ付いて来るんだもん」
レモンはそう言ってクスクスと笑った。
僕は自分の事を馬鹿にされていると感じたが、今の状況を飲み込むことに精一杯で、怒りは湧かなかった。
「それにさ、ドーリアン様。こいつの兄貴って“正式”にはまだ死んでないんでしょ? 死者への冒涜っていうのは間違いでしょ」
この大男の名前がドーリアンということが分かった。だからなんだという状況に変わりはないが。
「いや、彼の兄が死ぬことは既に確定しておる。肉体は焼かれているからの。しかしじゃ、兄上の魂はまだ現世に残っておる。正確に言えば、この世に魂が引っ掛かって、死ぬことができずに苦しんでおるのだ」
大男はそういうと僕の方に歩み寄ってきた。大柄なのにとても静かに歩く。まるで床の上を滑っているようだった。
僕の正面に来ると跪き、僕と目線を合わせた。僕の頭と同じくらい大きな目玉だ。
「汝の名は滝。滝風馬で合っておるな」
急に健康診断の本人確認みたいなことをされたが、厳かな雰囲気に押されて僕も「さ、左様でございます」と言ってしまった。
「お前の兄は少々やっかいなことに巻き込まれておる。じゃが、お前の行動次第で、兄を暗闇から救うことができる」
もし、この大男が言ってることが本当なら、僕はとても理不尽だと思った。兄は生前、地獄のような苦しみを背負いながら自ら命をたった。今でも安らかに眠れていないとすれば、これ以上許せないことはない。自然と拳に力が入った。
「ふーん、そんな顔もできるんだ。アホずらか泣きべそだけじゃないんだね」
レモンがまた笑った。僕の人生でこの女と関わるのは今日までにすると心に誓った。
「やる気は十分のようじゃの。さて、その兄を苦しめている根源はじゃな、そこにおる妖精のレモンなのだ」
僕は困惑した。
レモンは僕を真顔で見つめた後、不意を付くようにニッコリと笑った。




