旅立ち(2)
「レモン!はやく明かりをつけんか!」
再び男の大声が上がった。
すると、瞬く間に屋敷が明るくなった。僕はあまりの眩しさに目を細めた。
そこはとても広い洋間だった。天井いっぱいにいくつもの豪華なシャンデリアがぶら下がっている。壁には肖像や騎士が描かれた何枚もの油絵がかけられ、きらびやかな花瓶や首飾りがずらりと飾られている。
屋敷の外観とは裏腹に、室内は贅の限りが尽くされているようだった。いや、それにしても広すぎる。外観から見た感じより5倍は広い。僕の目がおかしいのだろうか。でも確かに、数歩だけ後ろにあったはずのドアが、30メートルくらい先に見える。
「お前、いつまでキョロキョロしとるんだ」
僕は声の方に目を向けると、そこに大男がいた。男の身長は僕の2倍以上で、間違いなく3メートルは超えていた。
真っ白く長い髭をたくわえ、長髪も透き通るような白さだった。銀色のローブを着ていて、ギリシャ神話に出てくる神様と姿が重なった。
これは夢だ。うん、そうに違いない。
「お邪魔しました。僕はこれで失礼します」
この屋敷から出てしまえば、この悪夢も覚めるだろうと思った。覚めないとしても、このままここに居て、大男によって僕が煮るなり焼くなりされる夢を見たくはないと思った。
「あんたが見てるのは現実だよ」
大男の後ろから少女がひょこっと出てきて、僕の心を見透かしたように、そう言った。少女は鼻と耳が異様にとんがり、目がまんまると大きかった。ただ、はっきりとした顔立ちは美しさを称えていた。
少女は、僕をここに連れてきた人と同じフード付きのマントを着ていた。
「レモン、いらんことをしおって。この男は震え上がってしまったではないか。滝のように汗も出とるし」
大男が少女に向かって言った。
「だってさ、人間を驚かすのって、ものすごく面白いんだもん」
レモンと呼ばれた少女がくったくなく笑って見せた。
「これだから妖精はいかん。それに、死者を無闇に冒涜してはならんぞ」
少女はふんっと言って、少し不機嫌な顔になった。そして、両手で自身の顔を隠し、その手をぱっと開くと、幼い頃の兄貴の顔に変わっていた。




