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拝啓、夏目さんへ 「夕日が綺麗ですね」

作者: 奏桜希夜


今日も1日が終わる。日が眠る準備をし始め月が起き上がる時、突然窓を見ていた貴方が言った。


「夕日が……夕日が綺麗ですね」


思わず顔を見ればその頬は夕日のせいか、赤く染まっていた。


「そうですね。1日が終わってしまいそうでさみしいです」


そう返すと彼は悲しそうに眉を下げた。知ってるわ。『夕日が綺麗ですね』の返答に終わる、沈む、という言葉は振られる意味を指すのでしょう?


「けれど貴方は、月も一緒に見てくれるのですよね?」


そう続けると口角を上げ目を輝かせた彼がいた。可愛いという感情が胸に湧き上がった。


わかりずらい人だと、まわりくどい、めんどくさい男だと言われることが多い彼だけれど、そんな彼のことを愛している私がいる。

それに、私の前の彼は何故かわかりやすい。そんな彼がとても愛おしい。


「夕日が沈んでも、今日が終わっても、明日も明後日も一ヶ月後も一年後も僕のそばにいてくれませんか…っっ」


プロポーズまがいなことを言う彼に私の心は今日も振り回されてばかりだけれど、平静を保って返す。


「当たり前でしょう?私は貴方が思うよりずっと貴方と一緒にいたいのよ」


私の言葉に一喜一憂する彼にその日も私は愛の言葉を送ったわ。


けれど、その愛をはじめにくれたのは貴方の方だったわね。覚えてる?

私達の出会い。


「はじめまして。二葉さん。夏目と申します」


どこからどう見ても真面目で、素朴で、少し地味な貴方。そこはいい意味で年をとっても変わらなかったわね。


「二葉さんも本が好きなのですか?自分もです。いいですよね。本はいろいろな世界を見ることができる」


「この名前のせいでよく幼い頃はからかわれた者です。二葉さんもですか?お揃いですね」 


 同じ趣味だと知って熱く語り合ったときも

 幼い頃の話をして二人で苦笑し合ったのも

 真剣な顔をしてプロポーズまがいな告白をしてくれたときも

病めるときも健やかなるときも辛いときも苦しいときも嬉しいときも悲しいときも楽しいときも


私の人生の半分以上をともに歩んでくれた貴方は誰よりも素敵で一途で最高の夫だったわ。


子供も孫も増え、二人だった家族が片手で足りなくなってきて…二人の顔にシワが増えても愛は消えなかったわ。

むしろ愛は増えていくばかり。


私、それはきっと、貴方だからだと思うの。

貴方が私のそばにいてくれたから今日まで生きてこれたの。

今更かもしれないけれどありがとう。


大好きよ。


 きっと泣き虫な貴方は泣いているでしょうけれど、最後の最後まで子供たちを見守ってちょうだいね?

少し先に私は逝くけれど、きっと夕日のそばで貴方を待っているわ。

別れがたいけれど今日はここまでにしましょう。


最後に夏目明さん。

 

 今宵は月が綺麗ですよ。


叶うなら来世もまた貴方とともに過ごしたいわ。

敬具 夏目陽乃


#沈む夕日

ご読了ありがとうございました。

稚拙で未熟な物語ですが、こんな二人がいたらいいなと思っていただければ幸いです。

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