第二・五章 光の国、馬車にて
揺れる山道の中
ふと、疑問に思う
「なんでアイさんはこんな奴と一緒にいるんですか」
「それは…」
再びことの経緯を説明する
話終わる頃には、口を開いたまま固まっていた
「話す度にこんな反応されると疲れるのぉ」
アイの膝を降り、そのまま馬車を飛び降りた
先程までアイの対面にいたシリスが落ちんとする襟を掴む
「なにするんですか!離して!」
「分かった」
掴んでいた手を離した
サーヤの時間がゆっくりと進む
目を強く瞑り、落ちるのを待っていたが、その時が来ることは無かった
「う、浮いてる!」
「引っかかったのぉ」
先程まで青褪めていた顔が、肌の色を取り戻していく
シリスの、やや嘲笑するような態度に怒っているようにも見える
「落とせる訳なかろう
契約で攻撃できんくなっておるし、
どこまで制限されておるか分からんからの」
文句のように吐き捨てながら
ゆっくりと引き上げ、馬車に戻す
顔はうっすらと陰っていた
「アイさんは魔王になる気なの?」
「そんな気はありません。
あと、私は魔族ではありませんので。」
胸を撫で下ろすサーヤ
一方で、シリスには引っかかる事があった
「魔族でなくとも魔王にはなれるぞ?」
「しかし、文献には魔王は魔族で一番強い者と…」
シリスは人々の伝承に呆れつつ説明する
シリス曰く、厳密には魔界で一番強い者が魔王になる
なので、魔界で生きられる者なら種族は問わないらしい
「実際、ワシも魔族じゃないし」
「冗談でしょ?」
魔界は、空中の魔力濃度が余りにも濃く、
作物も殆ど育たない
なので魔族以外のほとんどの種族は魔界では生きられない
ドラゴンなど一部の亜人、聖職者や勇者のように浄化を使用できる者、魔力耐性のある者
といったごく少数のみ生活が可能である
それを聞いたシリスは、自慢げに話す
「フッフッフ…聞いて驚け!
我は“全能の神”シリス様
じゃ!!」
「え?全能?」
驚きはしているものの、不思議なことの方が大きく、戸惑っていた
微妙な反応に納得がいかない様子のシリス
「全能じゃぞ?神の中でも上位の存在だったのになぜそんな微妙な反応するんじゃ」
「歴代の神の中に、全能は居ません。」
アイが言っているのだから嘘ではない
しかし、何故記されていなかったのかが全く分からずにいた
確かに神に対して裏切るような行為をしたが、伝承を残すのは人間
魔王になり、反逆者となった神を伝えない訳がない
色々な考えを駆け巡らせていると、馬車は街についていた
「皆様、街に入ます」
塀の外にいても聞こえるほど街は賑わっていた