序章 天界、そして異世界へ
iPadで投稿しているので、スマホだと読みづらいかも?
20xx年、日本
世間の人型AIロボット普及率は90%を超えた
一家に一台はそれがいる時代。いない方が珍しい時代
そんな時代に暮らす、一台の旧型の話
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夕飯の買い出しを済ませた“それ”は、帰宅中だった
車がそらを飛び、“あれら”が専用道路を走る中“それ”だけは一人歩道を歩いていた。そんな時だった
キュイィィン
突然石畳が光り出し、一瞬にして視界を奪い始める
「異常事態発生。直ちに警戒態勢に入ります。」
次第に光が消え周りが見える頃、そこはすでにこの世ならざる景色に変わっていた
目の前にいたのは、満面の笑みを浮かべている一人の女性
「私は光の神。アテナよ!」
彼女の周りが輝いている
危険がない事を察知し、“それ”は警戒を解く
「私は人型AIロボです。名前はお好きにお呼び下さい。それで、私は何故この様なところにいるのでしょうか。」
「あれ。おかしいな…」
“それ”の回答にアテナは驚いた
背を向け、何かを確認する
「問題はなさそうね…」
「ここは天界。あなたは異世界から召喚されるの」
「神から能力を授けられるんだけど何か希望ある?」
その言葉を最後に、少しの沈黙が入る
“これ”は人間の形を模しただけのロボットであり、欲などはない
「えっと…それじゃあ他の神を呼んでみましょうか?どんなのがいるか分かる方が選びやすいし」
「はい。」
アテナは何かを唱える
そのまま両手を床に向かって振り下ろすと、一人、また一人と神が集まった
「なんだぁアテナ。召集なんて珍しいじゃねぇか」
「どうしたんですか?何か不具合でもありましたか?」
アテナは首を振り、指差す
二人の神は振り向き“それ”を見る
「俺はガイル。武術の神だ」
「わたくしはエージス。魔術の神をしています」
「他にもいろんな神がいるから。少し辺りを見てくると良いかもね」
“それ”は言われた通り周辺を歩く。途中、火・水・風・土・闇の神、運の神、死神など様々な神と会うが、決まることはなかった
しかし、天界を進んで数十分、目の前にあったのは先程までとは真逆の世界
途切れた床の先には荒れ果てている土地が広がっていた
そんな中、黒い翼を持った少女が手首に鎖を繋がれ、眠っていた
「新しい転移者か?」
話し始めた瞬間、そいつが放つ殺気によって空気が重くなる
「殺気を確認。臨戦体制に入ります。」
太ももの横からナイフを取り出し逆手にして胸の前に構える“それ”に対し、目の前にいる脅威は面白そうに笑っていた
「ある程度封じられているとはいえ、我の殺気の前で武器を構える肝の太さ…なかなか骨のあるやつじゃ」
「ところでお主、もう契約は済ませたか?」
「なんですか、それ」
「なんじゃ。まだ説明を受けておらんのか」
「契約とは能力の貸与。力を貸す代わりに、それに匹敵する対価を渡す事で成り立つ関係の事を言う。謂わゆる信仰じゃな」
話せば話すほど殺気は増し、空気はより深く、重く。まるで深海にいるかのよう
金属の肌にも関わらず感じる、刺すような痛み
“それ”は初めて恐怖を感じていた
「ぬ、これでもまだ動けるか…」
「面白い。久しぶりじゃ、こんなに楽しいのは」
「のぉ、お主。もしまだ契約者を決めとらんのじゃったら、ワシと契約せんか?」
途轍もない圧の作られた笑顔
かけない冷や汗をかいている気分になる
大量の殺気を放つ、恐らく過去一番の脅威を相手に“それ”の取れる行動は一つ
「…内容を教えて下さい。」
話を聞くことだけ
「ワシから求めるものは一つ。封印の解除。
対価としてワシの力の一端を預ける。これでどうじゃ?」
「構いません。」
その言葉を聞いた瞬間、いきなり殺気が消えた
驚きと歓喜に満ちた顔で“それ”を見る
「ですが、もう一つ条件を増やさせていただきます。」
“それ”は真顔で提案する
「私が許可するまで攻撃を禁止します。」
「…なぜじゃ」
顔が曇り、再び殺気が漂う
「これ程の殺気を放てる者を、縛る事なく自由にはできません。」
「……まぁ良いじゃろう」
妥協したようにため息をつく
殺気が外れると同時に“それ”も警戒を外し、短剣を戻した
「そういえばお主、名は何と言う」
「ありません。お好きにお呼び下さい。」
「そうじゃのぅ…」
少しの間を置き、あっ、という声と共に顔を上げる
「安直じゃが“アイ”というのはどうじゃ?」
「構いません。」
「なんじゃ、もうちょっとなんかあってもいいじゃろ」
納得がいかなさそうに頬を膨らませた
「まぁええ。さて、契約を始めるかの」
「今回は、自分の名前を発するだけでよい」
人差し指を切り、前方に掲げながら−
「我、シリスの名の下に契約を交わす。汝の名は…」
血が一滴垂れ、陣が床に刻まれる
アイの頭に望みとその対価が流れてきた
「アイ」
「…これ破られしとき、その者に罰とし死を与えられん」
二人の手の甲に黒い陣が刻まれる
シリスの手を繋いでいた鎖が外れる
離握手で、徐々に自分の自由を実感し始めていた
「数百年ぶりの自由じゃ、感謝するぞアイ」
その時、アイの背後からアテナが現れた
「どう?決まった?」
「契約でしたら既に完了しました。」
よかったぁと、胸を撫で下ろすアテナに
シリスがアイの顔の後ろから顔を出す
先程までの安堵は消え、露骨に嫌そうな顔をしていた
「なんであんたがいるの、よ、、」
シリスの手に鎖が繋がれていないことに気づき、顔が青ざめていく
「まさか…あなた、コイツと契約したんじゃないでしょうね⁈」
「何か問題がありましたか?」
アイを揺らす手が止まり、シリスを指した
「こいつは世界を征服しようとしていた魔界の王なの!」
「それは過去の話じゃ。今は契約で攻撃もできんしの」
「諦めて話を進めるんじゃな」
腕を組み、ドヤっているシリスを涙目で睨む
しばらく問答していたが、どうしようもない事を悟り諦めた
「……はぁ。もうなんでもいいや」
「これから転移させるけど、持って行きたいものがあったら言ってね。こっちで持ってたものでも、新しく欲しいものでも」
「でしたら、私が使っていたトランクケースを中身ごとお願いします」
アテナが指を振ると、アイの横にトランクケースが現れる
中身がある事を確認すると、右手で持ち立ち上がる
「それじゃあ始めるから、動かないでね」
「これから送るのは光の国ラズリィ、私の護る国」
床の魔法陣の光が強くなる
その隙間からアテナの優しい笑顔が覗く
「栄えてるし、比較的安全な国だから」
「楽しんでね」
光に包まれたアイが、姿を消す
AIロボットによる異世界冒険が今始まる
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