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100回目のキミへ。  作者: 落光ふたつ
〖2章〗
25/42

〈気になる人②〉

 最初は、名前すら憶えていなかった。


「んっ……」

 当時のあたしは今より更に小さく、図書館の本棚の最上段には手を伸ばしても届かなかった。

 委員会の仕事として、返却された本を元の場所へと戻す作業。手が空いていたあたしは暇潰しでそれを行っていたのだが、どうも不相応だったらしい。

 それでも意地になって必死に背伸びを続けていると、

「大宮さん」

 突然名前を呼ばれてビックリする。反射的に振り向くとそこには同じ委員会の男子がいて、彼は右手を差し出してきた。

「俺が代わってもいい?」

 そう提案され、あたしは碌な返事もしないまま本を渡す。受け取った彼は、あたしが苦戦していた棚の最上段に難なく手を伸ばして本を収めてしまった。

 そして、残っていた本も彼がまとめて持ち上げる。

「まだ高い所のありそうだし、カウンター変わってもらっていいかな?」

「あ、ん……」

 お願いするように言われ、あたしはまた、まともに言葉を返さないままに引き受ける。

 カウンターに引き返すと、さっきまでは彼が生徒の対応に追われていたはずだけれど、すっかり落ち着いて何もする事がなくなっていた。

 手持無沙汰なあたしは、なんとなく作業する彼を眺める。

 別に何か気になる訳ではない。見た目に特筆する事はないし、仕草もそう変なものは見当たらない。

 そういえば、あたしは彼の名前も知らなかった。

 この時のあたしはとにかく他人に興味がなくて、人の顔を覚えるのも苦手で、今日、当番で彼と顔を合わせた時に、こんな人いたっけ、とすら思い浮かべるほどだった。

 せめて名前ぐらいは知ろうと、あたしは背後を振り返る。

 カウンター後ろの壁には色んな掲示物が貼ってあり、そこには委員会の生徒が割り振られている当番表があった。

 今日の曜日。あたしと並ぶその名前を見つけて、あたしはようやく知る。

 それから少しして彼がカウンターに戻ってきて、あたしはすぐに口を開いた。

「か、加納君、さっきはありがと……」

 言葉は若干つっかえ、遅れた感謝に対する猛烈な恥ずかしさを覚えながらも、どうにか義務は達成する。

「ううん、気にしないでいいよ」

 すると彼は優しい笑みで返してくれて。

 誰に対しても変わらないその表情を、あたしは気づけば追うようになっていた。


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