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ボクとネコのはなし:引きこもり女子高生と新米家庭教師が織りなす、ちょっと不器用な日常  作者: 清泪(せいな)
新人家庭教師と引きこもり女子高生

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第七話 でぃすいずすぱぁるたぁ!

 十七時を過ぎた。


 あと何かやることはあるだろうか? 思いつくあたり、何もない。彼女が予想してたより優秀過ぎて準備ができてなかった。


「んじゃあそろそろ帰ろうかな」


 長居しても迷惑だろう。


「もう帰るんですか?」


 つまんなそうな顔をする、樹下桜音己。駄々をこねる子供の様だ。


「今日は挨拶程度のつもりだったしね」


「挨拶程度でいきなりテストってヒドイですよね」


「実力を把握しときたかったからね。明日からはもっとビシバシいくよ」


「スパルタは映画以外流行りませんよ」


「そのスパルタは別物だと思うけど?」


 なるほど、都市名で引っかけてくるとは思わなかった。確かに何年か前にたて続けてスパルタを舞台に映画化されていたけれども。しかもその後、その影響で他メディアでも流行りだしてたけど。


「ツッコミに自信無くやられるとボケが困ります」


「いちいちボケなくていいんだよ」


「ツッコミとボケは関西人の基本やんか!」


「キミはいつから関西人の設定になった!?」


 関西弁、下手くそだし。ここ、関西じゃないし。


「それにしてもスパルタだなんて。問題を解けなければ殺される?」


「殺しもしないし、スパルタを引っ張らなくていい」


「でもビシバシって……あ、鞭の音ですか? そういうプレイはお断りです」


「そんなプレイはする気はない」


「無知なヤツには鞭を!」


「うまくない、うまくない」


 樹下は、わざとらしく頬を膨らまして不機嫌を気取る。これまた、子供の様だ。


 昔、<無知>という単語を知らないヤツが会話の中で鞭の方ばかり連想して無知を説明するのに苦労した、という思い出が頭に浮かんだけど言うのを止めた。だからどうした、と自分の中の何かが冷たく言った気がしたからだ。


「あ、先生これはボケとかじゃないんですけど」


「ん?」


 樹下が急に真面目な顔をしたので、ボクは戸惑って簡単な返事をした。どうもまだ、彼女のテンションに振り回されている感じがする。


「勉強の内容、もう少し上げてもらっていいですよ」


「ああ、明日からはちゃんと二年生用と三年生用を」


「そうじゃなくて!……」


 ボクの言葉を遮って、彼女は少し声を張った。ボクはビックリしたがしかし、その後は言いにくそうにゴニョゴニョとしている。


「あのアンケートみたいなヤツ、ちゃんと見ました?」


 そう言われるとボクは頷けなかった。さっきの丸文字もそうだが、ボクがやったことは軽く目を通したようなもんだった。


 鞄から、もう一度アンケート用紙を取り出す。


「私の通ってる学校、ここら辺じゃ有名な進学校なんです」


 彼女の言葉通り、学校の偏差値に疎いボクですら聞いたことのある学校名が用紙には明記されていた。漫画にでも出てきそうな、ガチガチの進学校である。


 頑張って入学しても、周りの成績についていけず脱落した者も多い、なんて噂を良く聞く。ボクには縁も所縁もなくて、すっかり忘れていた。


「だから、普通の問題出されても勉強にならなくて」


 樹下桜音己は、当たり前の様にそう言った。急に、ボクには彼女が遠い存在なんじゃないかと、不安に思えてきた。


 普通の問題と普通じゃない問題って、何だ?


 家庭教師としてボクは頷いてみせた。頷かなければいけない気がした。帰りに事務所に寄って調べてみよう。


 家庭教師っていうのは、意外と大変だな。甘く考えていた。


 それにしても。


 彼女も脱落組なのだろうか? 彼女がひきこもっている理由を考えないようにしていたが、やっぱり気になる。


 成績に問題があって脱落したようには見えないし、思えない。やっぱり、理由は他なんだろうか。


「また考え込んでません?」


 下から覗く様に、樹下が僕を見上げる。お互い椅子に座ったままだから、かなり無理した姿勢だ。


「詮索は無し、ですよ」


「わかったから姿勢を元に戻してくれ」


 下から見上げた姿勢のわりに、妙な切迫感がある。


 樹下は、ボクの言葉に頷いて姿勢を元に戻した。


 樹下の言う通り詮索は無しにしよう。この件については、彼女が自ら話し出すかずっと触れずにいるとしよう。


「さて、今度こそ帰るよ。明日は昼の二時頃に来るから」


 昼過ぎに来て欲しい。それが、彼女の依頼だった。まぁ、時間指定ぐらいは家庭教師にもあるのだろうが、何だか宅配便みたいな気分だ。


「了解です。お疲れさまでした」


 今度はすんなりと聞き分けてくれた。


 樹下は、右手を額のところで構える。警察か、あるいは軍隊の様に敬礼しているのだろう。ジャイアント馬場の真似をしているわけじゃない。


 ない、はずだ。自信は、少し無い。


 ボクは、荷物をまとめた鞄を手に持って立ち上がる。


 隣には、馬場のモノマ……敬礼をした樹下桜音己がこっちを向いて座っている。


 ボクは、立ち上がるとそのまま部屋のドアまで歩いた。


 振り返ると、馬場のモノ……敬礼をした樹下桜音己がこっちを向いて座っている。


 ボクは、正面に向き直しドアノブを回し、ドアを開け部屋を出る。


 振り返り中を覗くと、馬場のモ……敬礼をした樹下桜音己がこっちを向いて座っている。終始無言で、馬場の……敬礼をした樹下桜音己がこっちを向いて座っている。


 何なんだ、この娘。

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