表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/68

第二十八話 MK5

 うーん、と眉間に皺を寄せながら唸る樹下桜音己。


 今日の彼女はピンクのワンピースを着ていて、実に少女らしかった。お人形の様な姿とは裏腹に、眉間の皺は力一杯寄りに寄って、ボクに対して所謂“ガン飛ばし”をしているようだ。


「先生がCIAなら、私はTMNTです」


 なら、って何の対抗意識だよ。


 そもそもTMNTって、何だろう? 何処かで聞いたような気は確かにするのだけど。


「な、わかりませんか? そんな、MK5ですよ、まったく!」


 樹下桜音己は、口を尖らす様にしてそう言う。ふてくされている、というジェスチャーなのだろうが、不細工な鳥の真似に見えて仕方ない。


 MK5?


 確か、かなり昔に流行ったギャル語。


 マジで、キレる、5秒前。


 もしくは。


 マジで、恋しちゃいそうな、約束の5秒前。


「マジで、亀しちゃいそうな、5秒前」


「亀しちゃいそうな、って何だよ!?」


 ボケた、と主張する樹下桜音己の顔にぶつける様に、ボクは思いっきりツッコミの声をあげる。


 樹下桜音己は構わず、ゆっくりゆっくりと手を震える様に動かし、机の上のコップを手に取った。


 定番のアイスコーヒーが入っている。それを、いつも通り横に円を描く様に振る。ゆっくりゆっくり、と。あまりの遅さに、コップの中の氷が微動だにしない。


 ああ、まったく。亀しちゃいやがって。


 ん?、そうか亀か!


「TMNTって、目の位置に色とりどりのハチマキしてる亀青年達の事か!」


「今さら気づいたんですか? そうですよ、下水道でピザばっか食べてる亀青年達の事です」


 どちらもしっかりとした説明からは少しずれてる辺り、高度なボケ合いと言える。


 それにしても、あの作品も随分と古い作品だったような。いや待てよ、確かここ最近リメイク版が放映されてたっけ?


 ……というか、そんな話はどーでもいいな。


「何で、亀の話ばかりなんだよ」


「先生が先にボケるからいけないんです」


 ボクのツッコミに、よくわからない主張を述べて、またもや樹下桜音己は口を尖らしてふてくされてるのをアピールする。


 まさかのボケ禁止令!? って、驚く事でもないか。


「……というか、先生。何ですか、その“もう終わったよ”って顔は?」


 ボクはいつの間にやら、表情一つで物事を伝えれるようになったらしい。


「CIA。アルファベットでボケるの、もうやっちゃったんだよね」


 天然を炸裂させた、野球少女はもう帰っただろうか?


 ボクの答えに、樹下桜音己は不機嫌を隠そうともせず、それこそ、ボクを睨みつけてきた。


「な……なんですって……!?」


 樹下桜音己は目と口を大きく開き、“驚愕”っといった表情を作る。まるで劇画タッチの様な濃い表情は、効果音をつけるなら、クワッッ、か、ガガーンッ、が妥当だろう。


 樹下桜音己は、既にボケを先にやられてる事実にショックを受けて、顔芸にはしったようだ。


 これは、ツッコまないでおいてやろう。いつしかのスコットランドヤードが思い出される。


「大体、もうスパイって言いきったんだから、CIAで話題を引っ張るのが無理なんだよ」


 顔芸にボクがツッコミを入れない事を察知して、樹下桜音己は咳払いした。


 彼女は未だに、ボケ流しに対応しきれてないようだ。流された時は毎回、悲しがるか、恥ずかしがる。


「なんで言い切っちゃうんですか!」


 赤面しかけた顔を横に二、三振り、樹下桜音己はまたわけのわからない訴えを言う。


「話を進めよう」


 どう切り出せば樹下桜音己がボケずに済むか考えてたら、強引に進めるという考えに辿り着いた。


 え、はい、と頷く樹下桜音己。ボクと同じく押しに弱い様だ。


「そ、それじゃあ、あの、任務内容は何なのですか? あ、こういうの聞いたらマズイんでしょうか?」


 樹下にそう聞かれて、ボクはふと猿渡美里を頭に浮かべた。


 もうスパイだとはっきり言ったのだから、任務内容を伝えたって構わないだろう。というより、それを伝えないとフェアじゃない。


 それにしても、樹下の動揺具合が気になる。正直、家庭教師にいきなり、自分はスパイだ、と言われて引いてしまってるのかもしれない。


 そうだな、そんなキテレツな宣言をするクセに、ボケようとすると、真面目に話そう、と態度を取られたらボクだって引いてるだろう。


「ま、まさか日本にCIAがいるなんて思ってもいなかったので、正直どう接すればいいのかわかりませんね」


 樹下桜音己は、心底困惑しているのを表情に出しながら無理矢理笑って見せた。口の端がひきつっている。


 ん、何か今おかしな事言わなかったか?


「映画とかでしか観た事が無かったので、実在するとは思ってなかったです。それにこんなしがない家庭教師に変装するなんて」


 ツッコミどころが多いので悩むところだが、とりあえず根本的事を。


「ボクは、CIAじゃないぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ