第5話
目を覚ました白雪姫を兵士が問い詰めた。
「一体、また、なんでですか?誰に渡されたんですか?この簪に毒が塗ってあったんですよね?」
白雪姫はここにいる6人を守りたかった。嘘をついた。
「あのね、森に、この簪が落ちていて……。気になって刺してみちゃったの。そしたら、ごめんなさい。虫の毒でもついていたのかしらね。本当に、ごめんなさい。」
その翌日、継母は鏡に聞いた。
「鏡よ鏡、この世界で1番美しいのは、だぁれ?」
「は?白雪姫……?あいつは私が殺したはずだがね。何?生きているのかい?クソ、あのビッチめ。図太いんだから。」
幻聴は、妙な場面で力を発揮してしまったようだ。白雪姫は、生きている。継母は再び小屋へ行き、白雪姫を殺すことにした。
白雪姫は、悩んでいた。彼女は継母を愛していたのである。しょうがないんだ。私が悪いんだ。私が悪いからいけないんだ。だから、継母は私を殺そうとするんだ。継母は悪くない。病気だから仕方ない。病気なのに、支えきれてやれなかった私が悪いんだわ。そう考えることで、自分の感情を正当化した。
そんなとき、トントンッと軽いノックの音が聞こえた。
『継母だわ……。』
泣きそうになるのをキュッと堪えて、笑顔を作る。
「はい、なんでしょうか?」
優しい口調、明るい声、あぁ、私はこれから死ぬ。この声ともこれでおサラバ。
「美味しい、リンゴを、持ってきたのよ……。」
ドア越しから聞こえる悲しい悲しい母の声。
『はやく私を殺したくてうずうずしているのね。なんだか焦っていて、卑怯で、こっちまで惨めになっちゃうわ。』
「まぁ、リンゴを持ってきて下さったのね、ありがとう。」
そう言って、ドアを開ける。
外に立っていたのは、やっぱり継母だった。
リンゴという名のぐちゃぐちゃで緑色の物体。食べたら確実に死ぬのだろう。
「これが、リンゴだよぉ?美味しいから、さ、早くお食べ?」
リンゴを渡す継母の手はぶるぶると震えていた。
「これ、いくらしましたの?」
すました顔でそれにかじりつく。
フワッと足が浮く心地がした。途端地面に倒れ落ちる。継母は笑っている。意識がどんどん遠のいて、何やら幻覚のようなものが見えてきた。暖かくて、柔らかくて、ちょっとお乳の匂いがする。なんだろう。甘くて、苦くて……。あぁ、これは、継母様の腕の中。大好きだった、いえ、今も、大好きなあなた、あなたの、腕の中……。
白雪姫は、死にましたとさ。
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