第4話
ある日、白雪姫のいる小屋にお婆さんがやってきた。白雪姫は、このお婆さんが継母だということにすぐに気づいた。鏡が喋っているなどという幻覚を持っている人なのだ。お婆さんに上手く変装など出来るはずはなかった。髪を下ろし、みずぼらしい服を着て、頭からカーディガンを被っている。
『ついに、お母様が来てしまったわ……。ここにいる兵士や召使いが、殺されてしまうかもしれない。』
白雪姫は恐怖した。幸い今は、兵士も召使いも、食事を取りに山へ行っている。
「あら、かわいいお嬢さん。簪を1つあげましょう。」
しわがれた声にして喋っているが、その声は継母のものだった。カーディガンの奥からギラギラと光る目がのぞく。
『あぁ、お母様は、まだ私を殺そうとしているのね。』
母から渡された簪に毒が塗ってあることは明らかだった。
「絶対、似合うわよ、ほら、はやく、付けなさい!」
私がここで死ねば、母の怒りもおさまるだろう。そうすれば、私を助けてくれた兵士や召使いは、助かるかもしれない。
生きている意味なんて少しも見いだせない自分の体でも、死ぬとなると恐怖が全身を巡った。まだ死にたくないと心のどこかで感じてしまっている自分が少し憎たらしい。いや、違う。死にたいとか死にたくないとか、そういう問題ではないのだ。私を助けてくれた兵士、召使い。彼らの命とその家族のことを考える。優しさとは、命を削って誰かを助けることではないか。
簪を、ぐさっと頭に刺した。
その瞬間視界がゆらゆらと揺れ始め、あっというまに地面に転倒。継母はニヤッと笑い、森へと帰って行った。
兵士と召使いは、たくさんの食材を両手に抱え、歌を歌いながら呑気に小屋へ帰ってきた。するとびっくり、白雪姫が倒れているではないか。両手に抱えていた食材すべてを地面に撒き散らし、白雪姫を揺さぶり起こす。その反動で簪が髪から落ちた。簪の先は緑色に塗られている。
「毒か……?」
すぐに解毒薬を飲ませ、簪で傷ついた頭皮を手当した。すると数分後、幸福なことに白雪姫は目を覚ました。
「白雪姫……!!!」
兵士は男泣きに泣いた。召使いは白雪姫を抱きしめた。