第2話
翌朝、一睡もできなかった白雪姫は、か細い声でネズミと歌う。涙がダラダラと流れてくるけど、構っている暇はない。ただ、歌う。やつれた美しい顔を少し傾け、ネズミと見つめ合いながら。
そしてついにおかしくなった。
ネズミと歌っていた白雪姫は、突然、なにかに駆られたかのように走り出し、外へ外へと逃げていった。クルクルと踊りながら走った。廊下をぬけ、城をぬけ、門をぬけた。森に入る。木が全身を引っ掻いて、とても気持ちが良い。枝に引っかかって、ボロボロになっていく高級なドレス、葉に絡まってボサボサになっていく綺麗に整えていた美しい髪、転んだりぶつかったりしながら傷だらけになっていく白い肌。
あぁ、気持ちいい。綺麗なものを壊すのは、本当に気持ちがいい!!
気づくとそこは、深い深い森の中だった。朦朧としながら草の上に倒れ込んだ。
お城は、そこまでパニックにはなっていなかった。
あぁ、姫ももう限界だったか。
誰もがそう思った。
兵隊たちも、城を出ていく彼女を止めることはしなかった。なぜなら彼女は、今までにないくらい綺麗な笑顔で城を飛び出して行ったからである。
しかし、1人、パニックになった者がいた。
そう。継母である。
「白雪姫が行っちゃったら殺せないじゃないのおおおおおおおおぉ!!!!」
怒り狂った彼女は、お城中の人々に毒をぶちまけようとした。
ある勇敢な兵隊が、継母を止め、提案した。
「私共が、白雪姫をお城へ連れ戻します。どうか、落ち着いてください。」
継母は、そいつに毒をぶちまけ、殺してしまった。
「そうよ、早く探しなさああぁあああぁああぁぁぁ!!!」
そうすると、兵隊やら召使いやら、みんながみんな、一斉に、白雪姫を探しに行った。
ある召使いが、森で縮こまっている白雪姫を見つけた。
『なんて可哀想な子なんだろう。』
そこで、召使いは、自分の服を少し破って、その布を振り回しながら歌を歌い出した。
「ヘイホー、ヘイホー」
白雪姫は、ぼんやりと召使いを見た。
「やぁ、こんなところに人がいる!」
召使いは、演技が得意でなようであった。
「あなたは……?」
「私はこの森で暮らしている者だよ!君は、何者だい?」
「私は……そこのお城の、お姫様だったの……。」
「どうしてこんな森の奥にいるんだい?」
「わからない。なんか、来ちゃった。」
「よーし、ちょっと待っててね!君にお家を建ててやろう!」
そういうと仲間を数人呼んで、木を使って小屋を作り始めた。
「ヘイホーヘイホー!」
元気なその声は、森中に響わたる。城の兵隊も、召使いも、その声に気づき安心した。
「ヘイホー!」は、城のみんなで決めた合言葉だった。
姫は、生きている。
城に仕えていた人達は皆、姫を逃がしてやろうと考えていた。小屋を立て、そこで数人の召使いと楽しく暮らさせてやるのである。
その作戦が上手くいっている証拠の叫び声なのだ。
「ヘイホー!」を聞く度、城にいる召使いやら兵士やらは、継母のいないところで微笑んだ。