第1話
「鏡よ鏡、世界で1番美しいのはだあれ?」
継母は鏡に向かって呟く。もちろん鏡は何も答えない。
「何!?白雪姫!?私じゃないのかい!?」
1人で喋っている。
「クソッあいつさえいなかったら……!!」
継母は、白雪姫が憎かった。理由はない。あるのは、母の悲しい病だけ。
「クソックソックソッ……。」
そして最後には
「殺してやる。」
白雪姫は、肌が雪のように白く、黒い髪はダイヤの如く美しい輝きをもっていて、この世の誰もが羨む絶世の美少女であった。
彼女は歌を歌うのが好きだった。
毎朝、空に向かって歌を歌い、森に向かって歌を歌い、小鳥と一緒に歌を歌い、ネズミと一緒に歌を歌った。誰もが疎む、変人である。
「あの子は、本当に美しいのだけれど……おかしな子よね。」
彼女のいないところで、召使いの誰かが呟く。
「本当に、かわいそうに。」
もう1人の召使いは、同情した。
白雪姫は、毎日が辛かった。何も、自分からこんな変人になっている訳ではないのである。自然と口から歌がこぼれてしまう。全てがどうでも良くなって、歌わなければ全身が爆発してしまいそうな、そんな激情に駆られるのである。
「辛い。」
誤魔化すために歌う。大声で。綺麗な歌声なんて無い。あるのは彼女の叫びのような凄まじい悲歌である。
「辛い。」
私は先程、白雪姫は小鳥と歌っていると書いたが、それは、間違えであった。彼女は、カラスと歌っていたのだった。小鳥となんて歌っているはずがないのである。
継母は、白雪姫を殺すため、毒林檎を作っていた。しかし、全く冷静でない継母が、綺麗な毒林檎など作れるはずもなかった。
形はぐしゃぐしゃ。林檎の形など少しもしていない、赤いのか黄色いのか、紫なのか、黒なのか。よくわからない物体ができた。一見して、毒である。
しかし、継母は、その事実には少しも気づかず、ただ狂ったように毒林檎という名の、わけもわからない物体を作り続けた。
「殺してやる……。」
「殺してやる……。」
「白雪姫……。」
「殺す……。」
廊下から、自室で毒林檎を作っている継母の声が響いてくる。毎晩毎晩、白雪姫には聞こえてしまっているのである。白雪姫の部屋は、継母の部屋の隣なのだから。白雪姫は、ガタガタ震えた。怖かった。悲しかった。継母が好きだった。