09.ジャネットside③
けれど、捨てても捨てても山のようにくる結婚の申込み。
(わたくしは絶対にやり遂げてみせるわ……!)
そんな日々を送っていると、父はドレスを買うのを渋り、母は「いい加減にしなさい」と口煩くなっていった。
それでも父に「わたくしが有益な繋がりを持ってくる」と言うと、ため息を吐きながらではあるが、お金を出してくれた。
母とは昔から考え方が合わなかった。
そしてウェンディとフレデリックのような関係をいつも褒めていた。
しかし、そんな母を馬鹿にしていた。
そんな事ばかり言っているから父は愛人をつくり、外に逃げているのだと思っていた。
愛されもしないのに必死に父の仕事を手伝いながら、屋敷の管理をして働いている姿が惨めに映った。
そんな下らない努力が報われるとは、とても思えなかった。
(そんな甘い幻想ばかり抱いているから、お父様に愛想を尽かされるのよ……!)
本人達は隠しているつもりなのだろうが、社交界に出るようになれば自然と耳に入ってくる。
父の愛人は地味な母とは違い、とても華がある美しい人らしい。
最近は、そんな母を煩わしく思っていた。
しかし、それよりも目障りなものがあった。
「フレデリック様、今日は庭でお話ししましょう。フレデリック様の大好きなお菓子を用意したんです」
「ウェンディ、いつもありがとう」
順調に愛を育んでいる二人は、今日も仲良さげに目の前を歩いている。
(本当、消えてくれないかしら……)
そんな時、フレデリックと目が合った。
反射的に笑い掛けてしまう。
(しまった……つい)
何で妹の地味で冴えない婚約者なんかに笑顔を向けてしまったのかと後悔していた時だった。
なんとフレデリックが恥ずかしそうに目を伏せて頬を赤らめたのだ。
その反応は遊び慣れている令息とは違って新鮮に映った。
(ふーん、可愛いところもあるじゃない)
その日からフレデリックの此方に対する反応は明らかに違っていた。
けれどウェンディはそんな事にも気付きもせずに幸せそうに笑っている。
(ふふっ、いい事思いついちゃった)
上手くいかずに苛々していた時は、フレデリックに話しかけて色仕掛けをしては揶揄って遊んでいた。
純粋なフレデリックは、毎回面白い程に反応を返す。
照れたり、顔を真っ赤にしたり、手に触れただけで体を跳ねさせたりと、なかなかに楽しませてくれた。
そんな憂さ晴らしをしたところで、王子達はなかなか声を掛けてこない。
顔を合わせても話し掛けても簡単に躱されてしまう。
自分ではない令嬢と仲を深めているという情報が入れば令嬢達を引き連れて、その令嬢の元へ向かって苛立ちをぶつけるように文句を吐き散らしていた。
ライバルは影で潰していった。
縮こまって怯え、涙を浮かべる姿を見ていると気分が良くなった。
その中でも一番邪魔だったのは公爵令嬢のレイナとミアの存在だった。
父親の仕事の関係上、幼い頃から王子達の近くに居た二人は余裕たっぷりな表情でいつも此方を見下しているような気がした。
其れなのに、婚約者候補として有力候補なことが気に入らない。
噂ではもう王妃教育を終えているとの事だったが、王子達に婚約者は居ない。
(……幼馴染ってだけで、王子の婚約者になれると思ったら大間違いなのよッ!わたくしは誰より努力している!選ばれて当然なのにッ)
なかなか上手くいかずに苛立ちは増すばかりだった。
次第に王子達に近付くと明らかに嫌な視線を感じるようになった。
控えめにしても、此方に視線すら向けてはくれない。
悔しさに手を握り込んだ。
それから坂を転げ落ちるように何もかも上手くいかなくなっていった。