最終話
あの後、アーノルドとディマルコは「あのウェンディが……」と、腹を抱えて笑っていた。
レイナとミアが「いい加減にしなさい」「戻りますわよ」と怒っていた。
レイナとアーノルド、ミアとディマルコは最近になって婚約したばかりだ。
やんちゃな王子達は、色々な女性を見てみたくて自由に振る舞っていたものの、やはりレイナとミアを上回る人は居ないと気付いて改めて婚約を申し込んだそうだ。
レイナとミアも二人が必ず戻ってくる事は分かっていたらしい。
王子達が尻に敷かれる未来が今からでも見えてくる。
そんな四人が固い絆で結ばれている姿を見ていると、あんなに王子達の婚約者になりたがっていた姉には、初めから付け入る隙はなかったのではと思えた。
姉はアーノルドかディマルコの婚約者になる為に、影で沢山の令嬢達を蹴落としてきたようだ。
そして令息を騙すような形で利用して、婚約をちらつかせながら色々なものを得ていた。
ゼルナは裏で情報を集めながら、アーノルドとディマルコにも協力してもらい、その証拠を掻き集めていた。
その結果……ジャネットとデイナント子爵家は責任を問われる事となった。
それから姉はあのまま牢に入る事になった。
何度か父に手紙を送り助けて貰おうとしたようだが、父はジャネットを助ける為に動くことはなかった。
しかし牢の中でも反省する様子もなく、問題を起こし続け、ついに国外に追放される事となった。
母はその知らせを聞いて何も言わずに俯いていた。
デイナント子爵への賠償金は山の様に膨れ上がり、あっという間に破産した。
仕事も半分以上は母に任せきりで、金の工面も上手く出来ずに父は路頭に迷うこととなったらしい。
そして愛人は金がなくなった父をアッサリと見捨てて去って行った。
幼いアルフと母はどうなったかというと、なんとマルカン辺境伯が後ろ盾となることでアルフは爵位を継いだ。
今は母と共にデイナント子爵領を切り盛りしている。
ゼルナとマルカン辺境伯は全面的に協力して二人を支えてくれている。
そんな二人には感謝の気持ちでいっぱいだった。
父は一度だけ子爵邸を訪れたらしいが母に許される筈もなく、そのまま追い返されてしまったそうだ。
フレデリックはジャネットと婚約を破棄した後、社交界に姿を現さなくなった。
故に顔を合わせる事もなくなり、パーティーの後もニルセーナ伯爵家に何かを言われる事もなかった。
あんなに伯爵家を盛り立てようとしていた伯爵夫人も以前の勢いがなくなり今ではすっかりと大人しくなったようだ。
あの後、フレデリックに何があったのか知る由もない。
本邸での生活はとても充実していた。
レイナとミアに可愛がってもらいながら、六人で出掛けたりして楽しい時間を過ごしていた。
笑顔溢れる毎日……結婚する前とは全く違う環境に身を置いている事に時折、違和感を感じてしまう。
周囲を取り巻く環境もゼルナと結婚した事で百八十度変わったようだ。
そして嵐のような社交界シーズンが終わり、別邸へと帰った。
出迎えてくれたマーサと思いきり抱き合った後に、王都でのお土産とハーナからの手紙を渡した。
ブルに押し倒されて顔中を舐められて、動物達に群がられているゼルナは嬉しそうだ。
しかしすぐに起き上がった後に此方に駆け寄ると「体調は大丈夫?」「お腹は痛くない?」「辛くない?」と、オロオロしている姿を見て、彼を落ち着かせるように微笑んだ。
心配そうにお腹をゼルナが摩るのを見たマーサが口元を押さえる。
悪阻が酷くなり始めた為、空気が良い別邸で暮らせるのは本当にありがたい事だった。
ゼルナは「もう少しウェンディとの二人きりの時間を過ごしたかった」と言っていたものの「……ウェンディに似た可愛い女の子が生まれたら僕は嫁に出せない」と言って毎晩、思い悩んでいる。
それからゼルナの溺愛振りに拍車が掛かり、皆もお手上げ状態だ。
綺麗な花が揺れる大好きな場所で澄み渡る空を見上げながら大きく息を吸い込んだ。
幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
「ゼルナ様……愛しています」
「僕も、ウェンディを愛してる」
【その日、私は全てを失った〜辺境に嫁いだ結果、溺愛されています!?〜】
end
完結致しました!
此処までお付き合いして頂いてありがとうございました!
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