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「ウェンディ様、アーノルド殿下が申し訳ございません。絶対に驚かせたいからと口止めされておりましたの」
「いえ……!」
「ウェンディ様、また我が家のお茶会に参加して下さいませ。みんな喜びますわ」
「は、はい!喜んで」
公爵令嬢のレイナは第一王子であるアーノルドの婚約者で次期王妃だ。
同じく公爵令嬢のミアは第二王子のディマルコの婚約者である。
二人は王子達とは幼馴染だそうだ。
お茶会に呼ばれた後も何度か屋敷に招待され、その度にとても良くしてくれた。
完璧な淑女であるレイナとミアと共に過ごす事が出来て、良い影響を受けていた。
それはゼルナの妻になったからだろうと思っていたが、二人は「いくらゼルナ様の奥様だからって、仲良くもなりたくない方を何度もお茶会に呼びたいとは思いませんわ」
「殿下達からお話を聞いた時から、ずっと話してみたいと思っていましたの!想像通り、素敵な方で嬉しいわ」そう言ってくれたのだ。
そんなレイナとミアが庇うように前に立ち、鋭く姉を睨みつけている。
「あら…………ごきげんよう、ジャネット様」
「まぁまぁ……妹の婚約者を寝取っておいて、今更交換しましょうだなんて……本当に意地汚くて笑えるわ」
「なっ……!違うわ!本当はウェンディが……ッ」
「一生懸命、ウェンディ様の悪い噂をばら撒いていたようだけど……誰も信じてないわよ?」
「!?」
そう言ってレイナはバッと扇子を広げる。
その声は徐々に低くなり、怒りが篭っているようだ。
「だってフレデリック様とウェンディ様は十年以上も婚約関係を続けていた……少し考えれば分かる事よ」
「貴方達はどこに居ても喧嘩ばっかり……」
「皆、知ってるのよ?あの噂は嘘だって……貴方達が仲悪い姿を散々見ていますもの」
「婚約を解消するのも時間の問題……なんて噂が飛び交ってますけれど、ご存じかしら?」
「!!!」
「ふふっ、真実の愛って何かしらね」
「……ッ」
「あれだけ自由に振る舞っていた結果がこれだなんて……少し立ち振る舞いを考えた方がいいんじゃないかしら?」
二人は責める手を一切緩めない。
此方が口を挟む間もない程だ。
あんなに穏やかで優しい二人のいつもとは違う姿に驚いていた。
(レイナ様とミア様は、お姉様と何かあったのかしら……)
ジャネットは見ていて分かるほどに顔を真っ赤にして震えている。
「それと……そんな女の誘いに引っ掛かる男も、たかがしれているわよね」
「……!」
「今もただ見ているだけで婚約者を庇おうともしない……意気地なしよ」
「本当……下らない男。別れて正解ね」
「……っ」
「だって婚約を解消した相手が、あんなに花開いて美しくなるんだもの……ねぇ?」
「そうよねぇ…………その程度の男だって、直ぐに分かるわよ」
フレデリックはその言葉を聞いて顔を伏せてしまった。
それを聞いて、今まで燻っていた気持ちがスッと消え去るのを感じていた。
騒ぎを聞きつけて、周囲にはどんどんと人が集まってくる。
そんな二人の隣でディマルコは、騎士から紙の束を受け取るとペラペラと捲りながら「あーあ、酷いな」と呟いた。
そしてアーノルドは溜息を吐いた後にそっと口を開く。
「さて……ジャネット嬢。君に話さなければならない事があるんだ」
「ア、アーノルド殿下……」
「これ、なんだと思う?」
「……!?」
「全部、君から被害を受けた令息と令嬢達のものだ」
「な、何を……!」
「こんなに悪事を働いて、平然としているなんて信じられないね。君には今までの罪を償ってもらおうかな」
ディマルコの口端が吊り上がる。
それを見たジャネットは僅かに首を横に振った。
「……っ」
「オレ達に取り入ろうと、令嬢達を蹴落として貶めて酷い時には怪我までさせている……もう言い逃れは出来ないよ?全ての証拠は揃ってる」