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朝日が眩しく感じて、ゆっくりと目を開いた。
手のひらから伝わる温かい体温……いつものように手を繋いで寝ていた事を思い出して、安心からゆっくりと息を吐き出した。
そっと体を起こしてから、ゼルナの頬にキスを落とすと長いまつ毛が揺れる。
「ん…………朝から、反則だよ?」
「ふふっ、おはようございます。ゼルナ様」
「ウェンディ、おはよう」
「……」
「……」
「体は大丈夫……かな?その…………無理させたし」
「だっ、大丈夫です……!ゼ、ゼルナ様こそ大丈夫ですか?」
「僕は全然……」
「…………その、私はとても幸せでしたから」
「はぁ…………もう全部ウェンディが可愛すぎるせいだ」
「……え!?」
それからゼルナに包み込まれるように抱き締められながら侍女が入ってくるまで、ずっと話をしていた。
身支度が終わり、朝食を食べ終わった後にゼルナに「ここで待っていて」と言われるがまま、サロンのソファーに座って五分程経っただろうか。
(昨日言っていたサプライズの準備かしら……?ゼルナ様は何をするつもりなの?)
ノックと共に扉が開く。
ゼルナと共に立っていた女性の姿を見て、直ぐに立ち上がった。
「ーーーお母様ッ!!」
「ウェンディ……!」
淑女らしい立ち振る舞いなど忘れて母の元へ駆け寄り思いきり抱きついた。
「あぁ、会いたかったわ……!ウェンディ」
「……ッ」
「元気そうで良かった!安心したわ」
「っ、お母様……!」
手紙でずっとやり取りを続けていたが、久しぶりにこうして会えた事が嬉しくて仕方なかった。
フレデリックの件で、自分の為に駆け回ってくれた母に感謝の気持ちでいっぱいだった。
嫁いでからも此方の気持ちを見透かすように手紙で励まし続けてくれた母……それを思い返すたびに涙が零れてしまう。
周囲の事など忘れて抱き合った後、頬に流れる涙を拭うように指が頬を滑る。
「良かったわ……!」
「……お母様」
「……ッ、こんなに綺麗になって!よくして頂いているのね」
「はい……!」
「貴女の幸せそうな顔を見ていたら……嬉しいはずなのに涙が止まらないの。ダメね……今日は笑顔でいようって決めたのに」
「私も……嬉しくて、涙が止まりませんっ」
そっと背中にゼルナの手が触れる。
振り向いてから、お礼の意味を込めて彼に抱きついた。
「……ゼルナ様、本当にありがとうございます!」
「あちらの屋敷では、ウェンディが嫌な思いをしてしまうかもしれないから先ずは二人で会えたらと思っていたんだ。予定をずらしても顔を合わす可能性がゼロではないからね。連絡を取ったら、デイナント子爵夫人は直ぐに返事をくれたんだよ」
「お気遣いありがとうございます……!嬉しいです!!」
「積もる話もあるだろうから、僕は一旦席を外すね」
「ゼルナ様、ありがとうございます!!」
「いいんだよ。ウェンディ……楽しんで」
パタリと扉が閉まる。
母はもう一度、強く強く体を抱きしめてくれた。
「ごめんなさい、ウェンディ……母親として情けない限りだわ。あの子の我儘のせいで、ウェンディを苦しめてしまった」
「お母様のせいじゃないわ……!」
「いいえ……まさかジャネットがあんな事をするなんて!旦那様だって何を考えているのか……!わたしはその事が許せなくて、あの人とあれから全然口を利いていないのよ?」
「お父様と……!?」
「ええ、でもスッキリしたわ!今までは"わたしがしっかりしなくちゃ""頑張らなくちゃ"……いつもそう思って我慢していた。口を出してぶつかる事もあったけど、仕事はしていたのに……今は」
「…………」
「最近はニルセーナ伯爵夫人の対応が面倒くさいからって、愛人の所にばかり逃げて、わたしに全ての事を任せきりなのよ!?ジャネットの事も放置して……!!あの人の事なんて、今はもうどうでもいいわ!!」
「……信じられない」
「そうでしょう?わたしもよ……!それに今回の件で愛想が尽きたわ。勝手にすればいいのよ!!わたしも勝手にするから」