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あの後、ビックリする程に手厚い歓迎を受けながらドレスを選んでいた。
どれも見た事がないくらい素敵なドレスをゼルナは店員と共に充てがっていく。
「こんな素敵なドレス……いいんですか?」
「勿論だよ、ウェンディ」
「ゼルナ様の奥様に会えるのを、本当に楽しみにしていたのですよ」
「ありがとうございます……」
「ふふっ、可愛らしいお嬢様を捕まえましたね!」
「そうだろう?彼女の事を尊敬している……とても大切にしたいんだ」
「わ、私だってゼルナ様の事を大切に思っております!」
「はは、ウェンディは直ぐに張り合おうとするから、僕も負けてられないな」
「……!!」
「ウフフ、まぁ……!」
「お似合いですわ」
「そうですわね。ゼルナ様がとても明るく前向きになられて、私達も嬉しいです」
「そうだろう?あ、其方のドレスも取ってくれ」
「ゼルナ様!もう大丈夫ですから」
「いや、まだ足りないよ」
「もう十分です!!」
「フフッ、辺境伯様にそっくりですね」
「やめてくれよ……」
「……そうなのですか?」
「えぇ、お二人を見ていると懐かしい気持ちになりますわ」
そしてまたアクセサリー、靴、帽子、デイドレスを真剣に選ぶ彼を見て呆然としていた。
どうやらマルカン辺境伯も亡くなった夫人にこうして毎年、大量のプレゼントを贈っては「もう十分」だと怒られていたそうだ。
ゼルナは「父の気持ちが初めて理解出来た」と嬉しそうに笑っている。
今までにないくらい楽しそうなゼルナと大量のドレスを購入して、パーティーに着ていくドレスと燕尾服も、デザインや色がお揃いになっているものをオーダーした。
荷物が乗りきらないからと後ほど馬車を送る事になる程だった。
そんなゼルナは馬車の中で満足気に頷いている。
「やっぱりウェンディには淡い色がよく似合うような気がするんだよね」
「ゼルナ様……」
「あぁ……でもやっぱりあのピンクのデイドレスも買うべきだったかな?」
「ゼルナ様、買い過ぎです……っ!」
「そうかな?まだ足りないくらいじゃないか?」
「もう十分ですから……!」
ブンブンと勢いよく首を横に振る。
こんな贅沢をしていいのだろうか、そんな不安からか無意識にマイナスの言葉を口にしてしまう。
「勿体ないです。私なん……っ!?」
「しっ……」
“私なんかに"
そう言おうとした唇をゼルナがそっと指で押さえた。
吃驚して口を閉じたまま彼を見ていた。
「ウェンディ……君が自分で思っている以上に素晴らしい人間だと、僕は思う」
「ですが……」
「自信がないのは僕も一緒だよ」
「……!」
「僕は自分の事が大嫌いだった。でもウェンディに出会って変われた。そして君を守る為には俯いてばかりはいられないって思った……これからは今まで以上に努力するつもりだ」
「!!」
夕陽に照らされながらゼルナの髪がキラキラと光に反射していた。
ゼルナの手のひらが包み込むように指に絡む。
ドキリと心臓が跳ねて、頬が高揚するのを感じていた。
「君と一緒に、幸せになりたいんだ」
「ゼルナ様……私は」
ゼルナの隣に並ぶ為にはしっかりしなければと思う反面で、こんなに沢山の物を与えてもらう価値が自分にあるのか分からなくなっていた。
こんなに与えてもらってもいいのだろうか……不安に思うのと同時に申し訳なく思ってしまう。
最近は幸せ過ぎて怖くなっていた。
とても嬉しい筈なのに、愛される事に慣れていない為か気が引けてしまう。
真っ直ぐな愛情は眩しくて、素直に受け取る事が出来ないでいる。
此方の暗い表情を見て、ゼルナは明るい声を上げた。
「じゃあ言い方を変えようか」
「え……?」
「僕の妻として、堂々と隣に立っていて欲しい!」
「……!」
「そして、まだまだな僕を支えてくれないか?」
優しく問いかけるゼルナに笑みを浮かべて小さく頷いた。
きっと、一生懸命に言葉を選んでくれたのだろう。
此方の心情を丁寧に汲もうとしてくれる気遣いが、とても嬉しく感じた。




