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55.ジャネットside⑧


フレデリックに引き摺られるようにして馬車の中に押し込まれる。

それでもウェンディが歩いて行った店から視線を逸らす事が出来ずに睨み付けていた。



「あの店……ッ!!」


「あの店は王族御用達の……とても俺達が手が出る場所じゃないだろう?」


「………………」



(どうしてウェンディはあの王族御用達のドレスショップに入れるのに、わたくしはいつも買っているドレスすら買えないの!?あの店だけは、わたくしも……わたくしだって今まで一度も入った事はないのにッ!!なんで!?ウェンディが!?有り得ないッ!!)


こんなにお願いをしているのに、ドレスショップに行くのを嫌がるフレデリックの頭の固さにうんざりとしていた。

それに地味なドレスを持ってきては「今回はこれでいいかな?」と言ってくるのだ。

その間抜けな顔をぶん殴ってやろうと思った。


ウェンディが今まで地味だったのは自分でドレスを選んでいるからだと思っていたが、恐らくこの馬鹿な男が勝手にドレスを選んでいただけなのだろう。


(……我慢ばかりして、馬鹿みたい)


新しいドレスを買い渋り、文句ばかり言っているフレデリックの事が嫌で嫌で仕方なかった。


(普通に考えて、婚約者が美しかったら嬉しいでしょう!?なのにどうして下らない事ばかり言って金を出し渋るの!?)


ウェンディからフレデリックを奪えば自分も幸せになれる筈だった。

焦りから解放されて笑顔溢れる生活を送れると思っていた。


(どうして!?なんで、わたくしだけこんな事になっているのよ?)


そして辺境という何もないド田舎に嫁いで、仮面を付けている不気味な訳あり令息に嫁いだ筈のウェンディは何故不幸になっていないのか……。


(気に入らないわ……あれがいつも仮面を付けていたゼルナの素顔だというの!?噂と全然違うじゃない!!どう見たって今までの令息達よりも美しくて綺麗で……!!そんな方にウェンディが釣り合う筈ないでしょう?)



「ジャネット?」


「なに………ウ……ッに!!」


「え……?」


「何よ、ウェンディのくせにッ!ウェンディのくせにっ!!!!」


「……!?」


「絶対に許さない、ウェンディのくせにわたくしに頭を下げさせるなんて……っ」



あまりの腹立たしさに手に力が篭る。

馬車の中の装飾がバキバキと音を立てた。

伯爵家の馬車は古くて狭いのに、隣に停めてあるマルカン辺境伯の馬車……ウェンディの乗ってきたものは豪華で広々としている。


まるで格の違いを見せつけられているようだった。


髪も艶があり、上品なドレスを纏い、普通なら入ることすら叶わない予約制の超一流のドレスショップに入っていく後ろ姿が頭に焼き付いていた。

先程も、見目麗しいゼルナの背後に隠れて様子を窺っているウェンディの姿を見て、苛立ちで頭がおかしくなりそうだった。


(あんなに美しくて家柄も兼ね備えているゼルナ様の隣に立つのに相応しいのは明らかにわたくしの方でしょう!?)


そう思ってハッとした。


(…………今ならまだ間に合うかもしれないわ!フフッ、ゼルナ様だって、わたくしの魅力を知ったら、絶対にウェンディよりもわたくしの方を選ぶに決まっている……!今までもそうだったもの)


あんな美男子の旦那と暮らせるのも、あのドレスショップに入れるのも、あの馬車に乗れるのも……どう考えたって相応しいのは自分の方だ。


(フレデリックをウェンディに返せば納得する筈よね……?ウフフ、わたくしったらなんて頭がいいのかしら)


フレデリックが暗い顔で馬車に乗り込んで来たが、気にならないくらいに気分が高揚していた。

だって、もうすぐウェンディの幸せは自分のものになるのだから……。


(今日帰ったらお父様に頼んでみましょう!お母様にはバレないようにしなくちゃいけないわね。口煩いもの)


そうしたら今度こそ自分が幸せになれる……この婚約者の男も、あと少し我慢するだけでいいのかと思うとスッキリとした気分だった。



「はぁ…………最悪の気分だ。今回はもうドレスは諦めてくれよ?」


「…………」


「おい、ジャネット……!!」


「……もういいわ。我慢してあげる」


「!!」


「ふふっ……楽しみ」



フレデリックの時と同じ……ゼルナも直ぐに自分のものになる。


(……次にあそこに立っているのはわたくし。そうよね?ウェンディ)


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