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翌朝、いつもの時間に目が覚めた。
体内時計は整っており、今では同じ時間に起きる事が出来る。
(今日は着替えたらブルのご飯を用意して、それから残り物はなかったから朝食は何がいいかしら……マーサさんに相談しようかな。昨晩のパンで何か作った方がいいかも!美味しい蜂蜜を頂いたし。一応、ゼルナ様に聞いた方が……)
隣を確認してもゼルナの姿はない。
(あれ……ゼルナ様はもう起きたのかしら?)
肌寒さに違和感を覚えた。
そして自分がとても大きなベッドに寝ている事に気付く。
(あ………ここはもう別邸じゃないんだ)
いつもの癖で、かなり早く起きてしまったようだ。
朝日が薄っすらとカーテンの隙間から漏れている。
起き上がってカーテンを開いた。
いつも見える青々とした山や動物達が居る景色とは違って目に付くのは建物ばかりだ。
それがこんなにも寂しく感じてしまう。
下を見ると、手入れされた広大な庭が広がっていた。
(お姫様が住むお城みたい……)
まるで夢を見ているようだった。
暫く外を見ながらボーっとしていると……。
「あら?カーテンが……」
「おはようございます!ウェンディ様」
「随分とお早いのですね……!申し訳ありません。明日からはもう少し早く参りますわ」
「大丈夫です……!これは癖みたいなもので」
ブンブンと手を振ると、侍女達は顔を合わせてからニコリと笑う。
「ウェンディ様、ここは別邸とは違います。本邸では私達が全てやらせて頂きますから」
「でも……」
「別邸の暮らしに慣れてしまうと難しいかもしれませんが、頑張りましょう!」
「は、はい!」
テキパキと準備を進める侍女達を観察するように見ていた。
参考になる動きを見て、別邸に行った時に活かそうと思ったからだ。
素晴らしい手捌きと素早く動き回る侍女達に釘付けになっていた。
そして椅子に座るように促されると、髪や化粧など手際よく進めていく侍女達を見ながら感動していた。
鏡に映るのは見慣れた昨日までの自分の姿ではなかった。
「わー……!綺麗」
「綺麗ですよ、ウェンディ様」
「あのっ、私じゃなくて……皆さんのやり方が上手だから」
「ふふ、気に入って頂けて嬉しいです」
「ありがとうございます!ハーナ侍女長に鍛えられてますから」
「さぁ、ゼルナ様がお待ちですわ」
あっという間に身なりを整えられて、朝食を食べる為に移動していた。
未だに豪華な屋敷に自分がいる事が信じられない。
けれど昨晩振りではあるが、ゼルナと会えると思うと嬉しかった。
長い廊下を進んでいた。
大きな扉が両開きに開くのを見て、たじろいでいると……。
「おはよう、ウェンディ」
「おはようございま…………………す?」
「想像通りの反応で嬉しいよ。昨日、セバスに髪を整えてもらったんだ……久しぶりに視界良好だ」
「……………」
「驚いた?」
「……………はい、とても」
「ウェンディの顔がよく見えて、照れるな……昨日はよく眠れた?」
コクリと首を縦に動かすので精一杯だった。
何故ならば目の前に居るのは今まで知っている"ゼルナ"ではなかったからだ。
にっこりと微笑んでいる姿を見て戸惑ってしまう。
もはや誰だか分からないくらいに別人の美男子である。
もっさりと覆い隠された前髪で目元が見えなかったし、羊のようなモコモコとした毛は綺麗さっぱりに整えられて短くなっている。
涼やかな目元が細まると心臓が口から飛び出してしまう程にドキリと跳ねた。
目を見開いてゼルナを凝視していたことに気付いてハッとする。
「ほっ、本当に、ゼルナ様ですよね……?」
「うん、そうだよ」




