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「ウェンディ様、セバスチャンと申します。セバスとお呼び下さいませ」
「はじめまして!ウェンディです……宜しくお願い致しますっ」
「ははっ、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」
「は、はい……!」
急な環境の変化に気持ちが追いついていないが、切り替えようと必死に声を出す。
ゼルナは慣れた様子だが、別邸で過ごしていたワンピースは汚れていて皺々で、髪もボサボサだ。
急に此処に立っている事が場違いに思えて恥ずかしくなってしまう。
不安からソワソワしていると、セバスチャンがニッコリと微笑んだ後にパンパンと手を叩く。
「ウェンディ様は長旅でお疲れのようだ。皆、頼むよ」
「かしこまりました!」
「お任せ下さい」
凄い速さで移動してきた侍女に驚きながらも圧倒されていると……。
「ウェンディ、今日はゆっくり休んでね」
「あっ……!はい」
ゼルナの声に頷いてすぐに侍女達に囲まれて、案内されるがままに足を進めた。
「どうぞ、此方へ」
「ウェンディ様に会えるのを皆、とても楽しみにしておりました」
「あ……ありがとうございます」
侍女達と話しながらキョロキョロと辺りを見回していた。
外観だけでなく、内観も豪華絢爛である。
(まるでお城みたい……!あの壺……とても高そう)
そんな事を考えていると……。
「ウェンディ様……!ウェンディ様」
「……はい!?」
「此方が本邸に滞在している間のお部屋にございます」
「…………!」
「どうぞ、此方に」
「寝室はドアを隔てた隣のお部屋です」
「わぁ……」
広い部屋にポカンとしていた。
キョロキョロと辺りを見回していると、風のような速さで動いている侍女達が目に入る。
その動きは隙がなく徹底されている。
目で追ってしまうのは自分も、こう動けたらと思うからだろうか。
「まずはお身体を温めましょうね」
「その後はお体のマッサージです」
「その後はお肌の手入れを致しましょう」
「その後は髪を艶々に致しましょうね」
「手や足、爪の手入れも任せて下さいませ」
「あ、あの………!?」
何故だかとても嬉しそうな侍女達にされるがまま体を預けていた。
あまりの心地よさに緊張で強張っていた体から力が抜けていく。
(幸せ……気持ちいい)
今までは自分の事は全て自分でしていたが、今度は百八十度逆で、全て任せきりである。
あっという間に全身は磨かれてピカピカになっていく。
寝衣に着替えて、鏡の前に映る自分の姿を見てピタリと動きを止めた。
(……………え、誰?)
先程まではただの村娘だったのに、今は貴族の御令嬢に見える。
激しい変化に脳が追いついていかない。
「本日はゆっくり休んで下さいませ」
鏡の前の自分が別人過ぎて眉を顰めていると、軽食と紅茶が運ばれてくる。
他の侍女達とは明らかに違う貫禄のある雰囲気とピンと背筋の伸びた女性が部屋に入ってきたのと同時に侍女達は頭を下げて去っていく。
「お疲れ様です。ウェンディ様」
「ありがとうございます」
「これからは毎日、磨いていきましょうね」
「毎日ですか!?」
「勿論ですわ」
「えっと……お手柔らかにお願い致します」
「このハーナにお任せ下さい!姉から色々と伺っておりますわ」
「……!まさかマーサさんの」
「妹のハーナと申します。心配事がありましたら何でも相談して下さいね」
「ありがとうございます……!」
安心感にホッと息を吐き出した。
おっとりとしているマーサとは違ってハキハキしているが、笑い方がよく似ている。
軽食を食べながらハーナと、なごやかに談笑していた。
体も温まり、お腹も一杯になると眠気が襲ってくる。
ハーナに休むように促されるものの、姿が見えないゼルナの事が気になっていた。




