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その次の日ーー。
ゼルナの友人だという"ルド"と"マルコ"が結婚のお祝いを持って突然訪ねてきた。
二人は兄弟らしく、ボサボサの銀色の髪とレンズの分厚い眼鏡を掛けて、シャツは不自然な位に泥だらけである。
格好からして恐らく平民なのだろうが、綺麗な包み紙の豪華なプレゼントに驚いていた。
「君がウェンディ……?」
「…………は、はい!」
「へぇー……やはり信じられないな」
「な、オレの言った通りだろう?兄さん」
「確かにな。しかしなぁ……何度見ても全然違うな。全く似ていない」
「でも、ゼルナが好きそうなタイプじゃないか?」
「あぁ、確かにな!」
「えっと……」
「っ、おい!あんまりウェンディに近づかないでくれ」
「おー……怖いねぇ」
「あのゼルナが結婚したって聞いて、居ても立っても居られなくてさ!予定こじ開けて仕事を抜け出してきたんだ」
「はぁ……信じられない。もう帰ってくれ」
「ウェンディ、オレ達と一緒に色々話さない?」
「ゼルナの面白い話、いっぱい知っているぜ」
「お前らいい加減にしろッ!」
ゼルナの新しい一面に驚くのと同時に、凄い勢いで此方に迫ってくるルドとマルコに背を仰け反らせていた。
しかし直ぐに気持ちを切り替えて、ゆっくりしてもらう為と歓迎の意味も込めて、お茶を出さなければと声を掛ける。
「あ、あの……ルド様、マルコ様、紅茶とクッキーがあるので是非」
「ルドでいいよ!」
「そうそう。マルコって呼んで!様なんていらないから」
「ゼルナ様のお客様にそのような……」
「いいっていいって!それにオレ達……平民だよ?」
「だからお貴族様にそんな風に言われると萎縮しちゃうよ?」
平民だろうが貴族だろうが、ゼルナが心を許して仲がいいのなら大切な客人に変わりはない。
(……ゼルナ様が楽しそうで良かった)
三人で和気藹々と話している姿を見ていると微笑ましく思う。
「コイツらにはウェンディが焼いたクッキーは勿体ないよ!」
「でも……」
「本当に大丈夫だから!自分でやるから、ウェンディは休んでてッ」
「戸棚に昨日焼いたパウンドケーキもありますから」
「出さなくていいよ……!ウェンディが折角作ってくれたのに」
「はい。ですが、お二人共ゼルナ様の大切なご友人ですから……お口に合えばいいですけど」
「ウェンディは優しすぎるよ……」
「…………」
「…………」
「えっと……何か?」
何故かルドとマルコの二人に真顔で凝視されてしまい、固まってしまう。
「控え目で知的で良識がある……加えてかなりの努力家とみた」
「それに態度を変える事なく誰に対しても優しい……着飾らなくてもこんなに可愛い」
「へ……!?」
「君は素晴らしいね、ウェンディ」
「根暗で臆病なゼルナなんて辞めてさ、俺達はどう?」
グイグイと迫ってくる二人に戸惑ってしまう。
しかし、直ぐにゼルナに引き剥がされるように無理矢理連れて行かれてしまう。
「いい加減にしろッ!!二人に言いつけるぞ!?」
「それは勘弁……痛ッ」
「ゼルナっ!腕が取れる!!」
「おい、耳を引っ張るのは無しだろう!?」
「ウェンディ、パウンドケーキもクッキーも楽しみにしてるから!いてっ!」
「オレは紅茶に蜂蜜とミルクをたっぷり……ッ痛」
「ふふっ、はい!」
「俺はストレートで!レモンあったらお願い」
「わかりました!ごゆっくり」
手を振って三人を見送った。
暫くすると話を終えたのか戻ってきた三人が「ウェンディの手作りクッキー食べてみたい」「パウンドケーキも」と、言われて、先程言われた通りに紅茶を淹れていると、二人はニヤニヤしながら此方を見ている。
ゼルナは不機嫌そうではあるが、どこか嬉しそうだ。




