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「役に立てないなんて、とんでもない……!ウェンディ様はこの生活に馴染む為に沢山努力しております!本当に素晴らしいのですよ」
「ほう……!」
「わたしの手伝いも沢山してくれて……とても助かっているのです」
「……マーサさん」
「こうして未経験から、お一人でレシピ通りに料理を作られて凄いです……!まさか奥様と同じように、一緒に料理を作れる御令嬢が現れるなんて……わたしは嬉しいです」
マーサは嬉しそうに笑みを作る。
「そうか……ウェンディ、不便を掛けているな。此処での生活は、王都で暮らしている時とは違って大変だろう」
「いえ……最初は大変でしたが、今は新しい発見が沢山あって、とても楽しいです」
「マーサと良い関係を築いて、こうして料理を振る舞ってくれるなんてな……ウェンディは一生懸命、こちらに歩み寄ろうとしてくれているんだな」
「………っ」
俯きながら唇を噛んでいるゼルナに気付くことはなく、首を横に振った。
「こちらこそ……婚約を解消したばかりのわたくしを何も言わずに受け入れて下さり、ありがとうございました」
「…………理由は聞いているよ。それに此方もちゃんと調べさせて貰った」
「え……?」
「姉と婚約者に裏切られて、辛かったろう」
「…………はい」
「裏切、られた……!?」
ゼルナがポツリと呟いたが、小さな声が耳に届く事はなかった。
「それから……これは黙っておいた方がいいかもしれないが、デイナント子爵夫人から"主人には内密に"と早馬で手紙が届いたんだ」
「お母様が……!?」
「そこには君が今まで受けた扱いや状況が、事細かに書かれていたよ……そして誰よりも努力してきたウェンディには幸せになって欲しい。だからどうか……どうかお願いします、と」
「……っ!!」
その言葉を聞いて、思わず口元を押さえた。
じんわりと涙が溢れそうになるが、皆の前で泣く訳にはいかないと唇を噛んで必死に堪えていた。
母は見えないところでも懸命に動いてくれていたのだろう。
だからこそ、こんなに早く話が進んだのだと納得してしまう。
母の愛情を噛み締めながら、辺境伯の話に耳を傾けた。
「それを見て、なるべく早い方がいいかもしれないと迎えをやったんだ。非常識かとは思ったが、辛いだろうかと思ってね」
「いいえ……正直、とても有り難いと思いました。本当にありがとう、ございます」
「…………君は何も悪くないと、私は知っているよ」
「ッ……!」
「もう大丈夫だよ……」
大きな手のひらが頭を撫でてくれた。
我慢出来ずに人前にも関わらずに、ポロポロと涙が溢れた。
すぐに押さえなければと、サッと後を向いて涙を止めようとしていると、マーサが優しく背を摩ってくれた。
本当は……父にもマルカン辺境伯のように、味方になって欲しかった。
そんな悔しさにまた涙が零れ落ちた。
「帰ってくるのが遅くなってすまない。色々と説明をしたかったのだが、予想以上に仕事が長引いてしまってな……こんなところで不便も沢山あるだろうが、私は君を歓迎するよ」
「っありがとう、ございます……!」
「…………」
「嬉しい、です……!とても……本当に、ありがとうございます」
何度御礼を言っても足りないくらいだ。
その言葉で今まで頑張って良かったと思えた。
今までの我慢や努力が、その一言で報われた気がした。
その後も此方を気遣うように辺境伯は沢山面白い話をしてくれた。
その後も美味しそうに……そして、時折懐かしそうに目を細めながら食事をしている様子を見て、何となくではあるが辺境伯夫人の事を思い出しているのではないかと思った。




