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どうやら二人は親子ではあるが、全くタイプが違うようだ。
豪快でストレートなマルカン辺境伯と、控えめで照れ屋なゼルナ。
(真逆ね……私とお姉様みたい)
ふと、ジャネットの顔が思い浮かんで、掻き消すように小さく首を振った。
辺境伯は変わり者というよりはギャップが激しいと言うべきなのだろうか。
やはり父親である辺境伯の前では、いつものゼルナとは違うように思えた。
(……マーサさんや他の方達にも普通だけど、一向に私には心を開いて下さらない)
どこまで踏み込んでいいのか分からずに微妙な距離感に思い悩んでいた。
話し方も態度も此処に来てから変わらずに、ゼルナとの関係は全く進展していない。
テーブルには先程マーサと共に作った料理が並べられていた。
辺境伯はご機嫌に鼻唄を歌いながら席に着く。
(辺境伯は……この関係を知ったら、きっとガッカリするでしょうね)
マーサは渋々ながらも席に着くゼルナの姿を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。
そしてクルリと踵を返すのを見て、引き留めるように声を掛ける。
「あの、マーサさん……!」
「ウェンディ様、どうかなさいましたか?」
「マーサさんも、いつものように一緒に食べませんか……?皆で食べた方が美味しいですし」
「……!!」
「!?」
「あ…………か、勝手な事を……出過ぎた真似をしてしまって申し訳ございません!!」
「……ウェンディ様」
粗相をしてしまったと気づいたのは、言葉が出た後だった。
マルカン辺境伯の前で、マーサと一緒にご飯を食べたいと言うのは我儘だっただろうか。
屋敷の主人の許可もなしに大きな態度を取ってしまい、恥ずかしさから頬が赤く染まる。
もしかしたら図々しい女だと思われたかもしれない……そう思うと羞恥心でいっぱいだった。
失敗を挽回しようと思考を巡らせるが頭は真っ白だった。
しかし、辺境伯から掛けられた言葉は意外なものだった。
「以前は…………こうしてマーサと共によく食卓を囲んでいた」
「え……?」
「リアーナの事を……思い出していたよ」
「!!」
「そうですわね……奥様もこうして一緒に食べようと声を掛けて下さいましたね」
「…………え?」
「"皆で一緒に食べた方が美味しいもの!"……よく言っていたな」
「ふふっ、奥様の口癖でした」
「ああ、懐かしいな……マーサ、今日はウェンディの頼みを聞いてくれ」
「はい、失礼致します」
「…………ありがとう、ウェンディ」
「え、っと……あの、此方こそありがとうございます」
二人の温かい視線を感じながら熱くなった頬を押さえた。
和やかな雰囲気になった事に安堵するのと同時に、自分で作った料理が気になって仕方なかった。
先程、玄関に向かったのでマーサに味見をしてもらうタイミングを逃していたのだ。
「あの、マーサさん味見をお願い出来ますか……?シェフのレシピ通りに作ってみたのですが、初めて作った料理なので……とても不安で」
「分かりました!頂きますね」
「……お願いします」
(大丈夫……だと思うけれど、どうかしら)
やはり練習してからの方がよかっただろうかと、ドキドキする胸を押さえながらマーサの言葉を待っていた。
「ん~!!とても美味しいですわ!お上手です、ウェンディ様」
「本当ですか!?良かったです……!」
「まさか、これは……君が作ったのかい?」
「はい……!お母様にレシピを送ってもらって作ってみました。結婚してから迷惑を掛けてばかりで何も役に立てていないので、せめて料理くらいはと……」
「……!!」
それを聞いたゼルナが大きく目を見開いた。
僅かに震える手と小さく音を立てる食器……それを横目で見ていたマルカン辺境伯に気付くことなく、安心してホッと息を吐き出した。




