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牛、馬、羊、山羊、鶏………より取り見取りである。
伸び伸びと草原を走っている姿をボーっと見ていた。
(確か、動物が好きかって手紙の条件にも書いてあったわよね……)
動物は好きだが、犬や猫、馬の事だろうと勝手に思っていたが全く違ったようだ。
強いて言うのなら動物の種類を書いておいてくれたら良かったのにと思わざるを得なかった。
初めて間近で見る動物達に圧倒されながらも足を進めていた。
屋敷の前に辿り着いて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(……此処がマルカン辺境伯やゼルナ様が住んでいるお屋敷なの?)
目の前にある家をポカンと口を空けたまま見ていた。
(う、うちの屋敷より……ずっと古そうだわ)
想像と全く違う古びた民家のような家に驚いていた。
広さはあるようだが、とても貴族が住んでいる屋敷だとは思えない。
しかし辺りを見回して見ても、建物はこの家だけだ。
失礼な話ではあるが、使用人が住む家だと思ったのだ。
(本当に此処が……?)
しかし、よくよく考えれば王家の血筋である筈なのに、この家を見る限りとてもそうは思えなかった。
荷物を持ったまま、どれだけの時間固まっていただろうか。
動物の大きな鳴き声が間近で聞こえてハッとする。
(此処に来るって決めたのは自分だもの……!何があっても頑張らなくちゃ)
今から全部、自分の事をしなければならないと思うと上手くできるかは正直不安だった。
何故ならばデイナント子爵家から、侍女を一人も連れて来なかったからだ。
出発が急だった事もあり、王都から辺境の地に連れてくるのは侍女達の気持ちを考えると言い出せなかった。
他の令息ならまだしも、ゼルナの噂もあり誰も進んで手を上げなかった事も大きかったかもしれない。
ギシギシと軋む玄関の前に立ち、恐る恐る扉を叩いて一歩後ろに下がる。
しかし返事はない。
「あの、すみません。誰か居ませんか………?」
何も反応がなく戸惑っていた。
もう少し大きな声を出してみようと、思いきり息を吸い込んだ時だった。
「すみませッ……!」
バタンと勢いよく扉が開く音が聞こえた瞬間ーー
ひっくり返るようにして後ろに倒れ込んだ。
足元に荷物が置いてあった為か、なんとか頭をぶつけずには済んだようだ。
しかし、直ぐに体の上に何か重たいものがのし掛かる。
「ーーッ!?」
真っ黒になる視界……同時に影が落ちる。
ペロリと大きな舌で頬を舐められて反射的に体を固くした。
「ひっ……!?」
ワンワンという元気な鳴き声と共に、グッと押されるような重みを感じて息が止まる。
そのまま声にならない叫び声を上げながらも手をパタパタと動かして、もがいていた。
「こら……ッ!ブル、だめだろう?」
黒い塊が体の上から引き剥がされて、安堵から息を吐き出した。
ワンワンと嬉しそうな声が聞こえてきたが、倒れ込んだまま起き上がる事が出来ずにいた。
チラリと視線を送ると、目の前には髪が長く目元が全く見えない根暗そうな青年が立っていた。
(た、助かったの……!?)
尻尾でペシペシと頬を叩かれている。
大きな犬は青年に寄りかかるようにして、戯れついている。
小さな声で「痛い、ブル痛いってば……」と声が聞こえた。
あまりの出来事にどうしたらいいか分からずに倒れ込んだままでいると、前に手が伸ばされる。
「……!?」
しかし掴もうと手を伸ばした瞬間、何故か腕を引かれてしまい、困惑して行き場のなくなった手は重力に従って下りていく。
(えっ……と、どうしよう。触りたくなかったとか……?)
初めての状況に時が止まったかのように互いに動かなくなっていた。




