9 ワタクシのお屋敷探検
まさか、扉がワタクシだけは通さないようになっているなんて思いもしませんでした。
ワタクシ用の空間が広すぎて、メゾネットになっている各部屋の棚や机を調べるのに忙しくて、廊下の側にまで行ってみることも思いつきませんでしたもの。
わお。巨大なリゾートホテルみたいに、探検して回る余地がたくさんあるのですね。
これはワクワクしますわね。
でも、そうでしたわ。出られないのよね。
理由は、部屋に魔法で鍵が掛けられている??? から
まあ、何て素敵なんでしょう。魔法がかかった部屋にいるなんて。
問題の扉には、通常は鍵がかかっていないのに、ワタクシが近づく度に、ガチャリと鍵がかかることが、よく観察したら分かってきましたの。
自動ドアのドアが開く代わりに鍵がかかるバージョンのようですね。繰り返し、近づいては離れてをくり返して、どの位置まで来ると鍵がかかるのかまで、実験の中で解明できました。
おおおお、片手を伸ばして触れられるかどうか、というところまで来ると自動で鍵がかかるのですね。わお、素早く動いてみても、素早く反応して鍵がかかってくれるわ。そして、離れた途端に開錠。優れものですわ。
「一体、何を感動していらっしゃるんですか。このように魔法で閉じ込められているというのに」
「きゃー、閉じ込められている。監禁されている。るるるるる。これ以上言わないで、鼻歌歌いそうになっちゃうから……って、それよりメイちゃんは、これが魔法だって分かるのね」
「はい、魔法印が、あの扉の取っ手の上についています」
「魔法の印、印って何? 模様か何か? どれどれ、どこについているの?」
扉の取手のところを、メイちゃんがツンツンとつついて見せた。
よくよく見つめると、薄く、紋章のようなものがへばり付いているのが見えてきましたわ。
あらまあ、魔法印って、印だからかしら、思いのほか小さいものなんですわね。
何これ、素敵じゃないと思って、早速、魔法印とやらをそっくりそのまま、ワタクシの日記帳に書き写すことにしました。
小さいながら、とっても美しい図案になっている、蔦の葉が絡み合っているような線で円が描かれており、中に幾何学模様のようなものが並んでいる。その中のこれってもしかして、これが、きっと、『閉』マークだ。
この『閉』マークを『開』マークに変えちゃったらどうなるのかしら。
ペンの背で『閉』マークの部分を消して、開くって意味だったらこういう感じかなというものに書き換えて『開』マークにしてみた。
――カシャリ――
今の音、鍵開きましたよね。ワタクシがそっと取手を持つと、難なく、扉が開きました。
後ろで、メイちゃんが息を呑む気配がしました。
「やったあ、さあ、探検、探検よ」
「よ、宜しいのでしょうか」
「なーに言っているのよ。旦那様がヤバそうな犯罪者かもしれないから、黙って信用しているのはやめて、色々探り出しましょうって誘ったのはメイちゃんでしょう」
メイちゃんも昨夜ここに来たばかりだというけれど、仕事で屋敷の中をある程度歩き回っているから、ワタクシよりは、はるかにこの屋敷に詳しい。
メイちゃんの案内で、学校探検ならぬ、お屋敷探検をスタートしたのだけれど、色々回っても、やっぱり初めて来た場所なんじゃないかなあってくらい何の記憶とも繋がらない。
ここが、本当に自分が奥様やっていた屋敷なのかしら。そんなに大きくは無さそうだけれど、やっぱり立派すぎるお屋敷だわ。
何だか、自分がニセモノの様に思えて来てしまうじゃありませんか。
でも、そんな心配がすぐ掻き消えてしまうくらい、屋敷探検が楽し過ぎた。メイちゃんが案内の中で、建築の歴史を交えながら、一般的な屋敷とこの屋敷の作り方との違いを教えてくれた時の話術の素晴らしかったこと。本当に私のメイドちゃん何て優秀なの。
知的好奇心をくすぐる文化的なトークでいて、メイちゃん視点で見た旦那様の怪しさをワタクシに気付かせようと色々話を盛っちゃってくれるものだから、最高に面白いのですわ。メイちゃんとワタクシが回れた場所は、ほぼメイちゃんが仕事で動く動線のみ。屋敷内には、他の部分もたくさんあるはずなのに、そのどこにも行き着く廊下も扉も見つからないのです。それも、全部旦那様にたくさん秘密があるから隠蔽魔法で隠されちゃっているためとの事。
メイちゃんの描くブラックな旦那様も耳に馴染んでくるとなかなか良い感じです。
この屋敷探索の当初の目的物。見つけたかった『筆』は、残念ながら見つからず仕舞いでした。
アトリエっぽいところには、辿り着けなかったのです。
それから、あの、絵がたくさん飾られていたワタクシが目覚めた時の部屋も、どこにも見つかりませんでした。
メイちゃんのいう通り、旦那様の仕事部屋は、きっと魔法で隠されてしまっているのでしょう。魔法で開かなくなっている扉というものがあれば、ワタクシの日記帳を使って忍びこんでしまおうと楽しみにしていたのですが、扉そのものが見つかりませんでした。
タペストリーの後ろとかに隠し扉があるのでしょうか。それとも、幾つかの家具を定められた通りに動かすと壁が下がっていくとかかしら。
「あそこの扉は、玄関扉だから、外と繋がっている物だから違うわよね。」
立派なエントランスに収まった玄関扉は大きい。両開きで横幅もあるし、高さも高い。メイちゃんが入って来たのはこの扉からでは無いかもしれないけれど、確か森を通ってここに来たという話だったからこの先は森なのかしら。メイちゃんに確認すると、屋敷の外がどこと繋がっているかも常に定まっている訳じゃないらしいんですって、なんとまさか動く城ですか?
ちょっとだけ、外を覗いてみてもいいかしらと興味を惹かれたのだけれど、メイちゃんに全力で止められた。
「この扉にかけられているモノは、先程の奥様のお部屋の魔法印なんかとは桁違いに強力なモノです。決して触れるべきではありません」
「ええっ、それなら仕方ない……のは分かっているんだけど。でも、ちょっと、そっと触ってみるくらいは、いいでしょう」
ワタクシ、ドキドキしながら玄関扉にそっと触ってみました。特に、魔法印ぽいものも何も浮かんで来ません。ドアノブをぎゅっと握ってみました。
と、その時です。
――ドン、ドン、ドン、ドン――
玄関扉が外側から激しく叩かれたのです。
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