初めての依頼
「も、もうこんなことはするでないぞ……」
「は、はいぃ……すいません……」
困惑顔のサミエラとひたすらに頭を下げ続けるテミル。
俺たちは床に散らばったバッタを1匹1匹捕まえて外に放していた。
「テミルの考えを察しておくべきだったな……」
「そうだね……。彼女、普通に虫とか食べるもんね……」
ボソボソと呟く俺たちの声が聞こえたのか、デミルは涙を目にいっぱいに貯めて声を震わせた。
「で、でも……!バッタは美味しいんですよ……!」
「今それ言うか?」
「本当に反省しておるのかの?」
「ほ、ほんとに反省してますってばー!」
そんなことを言い合いながらなんとか片付けを終え、皆で昼食を取る事が出来たのは昼をとっくに過ぎた二時頃の話であった。
***
かなり遅い昼食を終え、俺たち三人はサミエラに呼び出されていた。
言うまでもないことではあるが……説教だろうな。
そんなわけで、呼び出し先の部屋の前までやってきたものの、なかなか入る事が出来ない。
「……ディアン、お前から入れよ」
「嫌だよそんなの。悪いのはテミルだろ?テミルから入るべきだと僕は思うなぁ」
「嫌ですよ?!」
「早く行けよめんどくさい」
「ななな、なんで私が悪いみたいになってるんですか?!」
「お前が悪いからだろ」
確かに、とでも言いたげな顔でハッとするテミル。なんだこいつ。
「じゃ、テミルから入るってことで」
「え、ちょっと待ってくださーー」
テミルを見ていてめんどくさくなったのか、ディアンがドアを開け、テミルを無理やり押して中に入っていく。
焦るテミル、涼しい顔のディアン。
そして、中にいたのはバッタを食べるサミエラ。
え?
「おや、テミル。なかなかバッタも美味しいのう?やっぱり見た目だけで判断するのは良くないんじゃな」
「でででですよね?!喜んでもらえて良かったぁ……」
「うむ。でも無断で持ってくるのは辞めるんじゃぞ?苦手な子もいるんじゃからの」
言っていることは至極真っ当だな。そう、口からバッタの足が飛び出ていることを除けば。
「あー、サミエラ、お前虫大丈夫なのか?」
「蜂以外は割と平気じゃな。蜂は前刺されたことがあったせいで苦手じゃが……」
「確かに、虫ぐらい平気じゃないと孤児院なんてやってられませんよね」
ディアンの言葉に微笑んで頷くサミエラ。ダメだ、バッタの足が口から出てるせいで何も話が入ってこない。
「で、なんの用だよ。その感じだと怒られるわけじゃなさそうだよな?」
「そうじゃな。別に怒ろうとは考えておらんよ。要件はフリオの父親についてなんじゃが……」
「なっ、見つかったのか?!」
「そう急くでないわ。順に話すわい」
その後聞いたサミエラの話を要約すると。
まず第一に、俺の父親は探したけれど見つからなかったこと。
第二に、父親と合流するためにはギルドの協力を得て、人探しをするのが良いのではないかということ。
第三に、ギルドに人探しの依頼を頼んだところ、見返りとしてある仕事を頼まれたこと。
こんな感じだった。
「ある仕事って……子供に出来るような仕事なのか?」
正直なところ、冒険者として働いてくれ、などといった頼みでも簡単に承知するつもりだったのだが、子供にこなせないほど力のいる仕事とかだと困る。
冒険者として働くことに関しては、そもそも冒険者になりたかったというのももちろんあるし、俺の「スキル」があればSランク冒険者だって目指せる確信があった。
俺とディアンとテミルの三人。パーティーを組むにも丁度いい人数じゃないか。
「仕事と言っても簡単じゃよ。何も言わずに台の上に立っているだけでいいそうなんじゃが……」
「それ受けて大丈夫な仕事なんですよね?」
ディアンの質問に、サミエラは黙り込んだ。
「……怪しい、とかでは……ないと思うがの……」
「サミエラさん、素直なのは美徳だと思いますが、さすがに騙されないようにはした方がいいと思うんです」
「なんでこんな子供に諭されてるのかのぅ」
サミエラの方が遥かに年上なのにも関わらずディアンが年上に見えるのは何故なのだろうか。
サミエラが子供っぽいからか、ディアンが大人びているのか。
「両方じゃないですか?」
「心読まないでくれる?」
することも無く、黙ってサミエラとディアンのやり取りを見守る。
テミルはそっと、サミエラの机の上に置いてあったバッタをつまみ食いしようとしていた。
その後しばらくして、ディアンが戻ってくる。
「フリオ、この仕事は受けても大丈夫そうだよ」
「そうなのか?詳しく教えてくれ」
「おっけー。任せて」
「うむ、ワシからしっかり話しt」
「いや、ディアンに聞くから」
「なんでじゃ?!」
だって話長そうだし……。
サミエラからの説明は遠慮して、俺はディアンの方に向き直った。
「で、どういう仕事なんだ?」
「簡単に言うと、ギルドの人寄せだね。僕たちは村を救ったってことで噂になってるらしくて、僕たちを呼んで何か開きたいんだってさ」
「よく分かんないけど、それで父さんを探すのを手伝ってもらえるんだよな?」
「そういう約束じゃからな。きっちり手伝ってもらうつもりじゃ」
そういうことなら問題ないだろう。
「よし、じゃあ早速ギルドに行くか!」
***
「あぁ、皆さんが噂の子供達ですか」
ギルドの応接間。俺たちは太った男に迎えられていた。じろじろと俺達を眺め、男は言う。
「……そんなに大したことがあるようには見えませんが、まぁ大丈夫でしょう。服は着替えてもらいますから向こうで採寸を。サミエラさんは少し話しましょう」
「う、うむ、それは良いんじゃが……少し子供達にも話があっての?」
「後でいいでしょう。ギルドの者に任せておけば何か問題があるわけでもなし。礼節なんてものはもとより気にしておりませんしね。孤児にそんな物、求めておりませんので」
……なるほど、こういう。
ディアンの方を見ると、ディアンも俺と同じ感想を抱いたようだった。
この男、なんか気に食わない。俺達を舐めてるし。
テミルは……あ、駄目だこいつ、何も分かってない顔をしてる。
「あ、あの!」
テミルが、男とサミエラの話に割って入る。
「はぁ……どうしたんだいお嬢ちゃん。私は今少し忙しくてね、何かあるなら向こうの職員と--」
「私、お土産持ってきたんです!こういう時はお礼の品?を持ってくものだって村のおじさんが言ってたので!」
「……ほう、それは感心。ただの孤児かと思ったのですが相応の知恵はあったようですね?」
男が、テミルの差し出した袋を受け取る。
その袋に、見覚えがあった。
「あー……またか」
「……でもまぁ、スカッとするし良いよね」
「そだな」
ニヤニヤしながら事の顛末を見守る俺とディアン。
直後、男が開いた袋からまたもやバッタが放たれたのだった。
ミニモの干し肉≒テミルのバッタ




