腹が減っては
「サミエラさん、これからよろしくお願いしますね」
「うむ、任せておくと良いぞ!わしも家族が増えて嬉しい限りじゃ!」
「はい。僕も良い家を用意していただけて嬉しいです」
ぼろい孤児院。家族を失った村の子供たちを連れて俺たちはサミエラの元へとやって来ていた。
ドアだって、少し蹴れば外れてしまいそうなぐらい建付けが悪い。
そんな中、代表としてディアンがサミエラと話をしているのが酷く居心地が悪かった。
他に行く場所も無いとはいえ、本当に今日からここに住まなければいけないのだろうか。
「む、お主は……フリオじゃったな。フリオ、どうしたんじゃそんな目をして」
「いや、ぼろい家だなぁと思っただけだけど?」
「失礼じゃな?!」
サミエラは口をとがらせているが、実際ぼろいんだから仕方ないじゃないか。
「フリオ、こういう時はお世辞でも『いい家ですね』って言っておくべきなんだよ」
「さっきのはお世辞だったのかの?!」
「……本音ですよ?」
「間があったんじゃが?!」
地団太を踏むサミエラは体が小さいのも相まって、子供が駄々をこねているようにしか見えない。
「……ふっ」
「鼻で笑った?!」
「サミエラさん、ちょっと落ち着いてください。話が進まないので」
「う、むぅ……」
ふん、と鼻を鳴らしてサミエラはディアンとどこかへ行ってしまった。
そこで、俺は近くにいたテミルに声を掛ける。
「おいテミル、探検しに行かないか?」
「た、探検?!いや、でも皆ここに居るんですからとどまってた方が……」
「大丈夫だろ。町をちょっと見てきて戻ってくるだけだし平気だって」
「んー、ま、まぁすぐ戻ってくるなら……」
そんなこんなで、俺たちは町に出て行くことになったのだった。
***
「……なんかおかしくね?」
「そ、そうですか?確かに村とは全然違うかもですけど……」
「いやそう言うことじゃなくて、なんか見られてないか?」
なんかこう、じっとりした感じの視線が向けられてるというか……。
「でも孤児に向けられる視線はこんなものじゃないですかね?」
「それだ!」
「え、えぇ?な、なんですか?!」
そういえば俺はもう孤児になっているんだった。厳密には、町に出てきているはずの父親が見つかるまで、だが。
周りの人間から見ると俺が孤児に見えるのは当たり前の話だ。孤児が居たら疎ましく思うのも当然、ということだな。
テミルは元々孤児だったから、この視線にはなんとも思わないのだろう。
「んー、やっぱ居心地悪いな。帰ろうぜテミル」
「え、あ、は、はい!分かりました!」
というか父さんはどこにいるのだろうか。一応町にも来たことだし、どこかのタイミングで父さんと合流できたらいいのだが……。
問題は、父さんの顔を思い出せないことだな。サミエラにも相談してみるか。
「……あれ、テミル、孤児院どっちだっけ?」
「え、わ、私フリオ君が覚えてるものだとばかり……」
「……まじ?」
なるほど、迷ったな。町を舐めてたわ。
かといってそこら辺の、俺達をじろじろ眺めてくる大人に道を聞くのもな……。
「よし、じゃあ高いとこに登って確認すればいいんだよ」
「え、あ?!ちょ、ちょっと何してるんですかフリオ君!まずいですって!」
「まぁちょっと見てくるだけなら怒られねぇだろ」
スキルで人影を呼び出して人影に命令。もうすっかり慣れたものだ。孤児院に来るまでの道でもこっそり練習していたのだから。
組体操の要領で人影に階段をくみ上げさせ、俺はその上によじ登った。
孤児院は--あった。この先、俺達が進んでいた方向で合っているようだ。
「よし、見つかったぞテミル!」
「わ、分かりましたから早く降りてきてください!」
「はいはい……っと」
こうして、俺たちは多少のトラブルはあったものの孤児院に無事に帰りつくことができたのだった。
***
「ん、どこに行ってたんだい?もう昼食にするそうだよ」
孤児院に戻ってきた俺たちは、エプロンをかけたディアンによって迎えられた。
「なんだその恰好?」
「何って……もちろんサミエラさんを手伝おうと思ってね。フリオもやるかい?」
「まぁやった方がいいなら手伝うか……。テミルはやるか?」
「あ、いや、私は迷惑をかけてしまいかねないのでおかずでも作っておきますよ」
遠慮がちに言うテミル。言い終えると普通に孤児院に出て行こうとする。
「え、孤児院から出てどこに行くんだい?」
「な、何って食材調達ですけど……」
「でも食材調達も何もお金持って無いだろう?」
確かに。どうするつもりだったんだ?
「普通に野草を摘んでくるつもりでしたけど……?」
「町に野草は生えてないだろ」
「いや、多分ツッコミどころはそこじゃなくて、野草を食べようとしてるとこだよね?」
「……確かに……?!」
「今気づいたの?」
テミルの言い方が自然すぎて気づかなかった。
「まぁ野草以外でお願いするよ……。あと出来るだけ早めに帰ってくるんだよ?」
「はい!任せてください!」
***
「皆、今日のお昼ご飯は新入りのディアンとフリオが手伝ってくれたぞ!拍手!」
サミエラの号令に、テーブルについた子供達が拍手する。
俺たちは順調に食事の用意を終え、既に席についていた。サミエラが話をしてはいるが、別のことが気がかりで何も耳に入らない。
「……おい、テミル帰ってこなくないか?」
「だね……。どうしたんだろう……」
「それでは皆!今日の恵みに感謝じゃ!」
サミエラが食事の号令をかけたその時だった。
孤児院にテミルが飛び込んでくる。
「ご、ごめんなさい!遅くなりました!」
「む、お主は確かテミルじゃな?遅いのではないかの?何をしてたんじゃ?」
「わ、私もご飯を作ろうと思って!捕まえてきたんです!見てください!」
……捕まえてきた?
テミルは、手に握る袋に手を掛けた。
「ッッ!ディアン!その袋を開けさせるな!」
「ちょ、この距離は流石に間に合わ--」
直後、何十匹ものバッタが室内に放たれ、悲鳴が上がったのだった。




