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死霊術ドラゴン(全身兵器)

「ッッ?!フリオ?!」


 フリオが剣を振るい、ドラゴンの首に剣を叩きつけた時だった。

 ドラゴンの首筋から火炎が噴出してフリオの全身を炎が包み込んだ。

 爆風が周囲に広がり、全身を焼かれる痛みに苦痛の叫びをあげながらフリオが弾き飛ばされる。


「大丈夫か?!」


 すぐにフリオの元へ駆け寄り、水魔法で消火。だがそんなものでどうにか出来るような傷ではない。抱え上げてはみたものの、ここから何かすることは俺にはできそうにない。


 炎に包まれただけならまだしもあれだけの至近距離で爆発が起こったのだ。

 当たり前ながら、フリオは相当な重傷を負っていた。


 剣を握っていた手が本来なら曲がるはずがない方向に曲がっている。額からは血が流れ、目もどこか虚ろだ。

 あの爆破が一瞬で意識までも刈り取ったのか、ぐったりして動かないフリオ。

 生きてはいるようだが危険な状態だ、と急いで近寄って来たアニキが俺に尋ねてくる。


「お、おい、これやばいんじゃないのか……?!」

「当たり前だ!くそ、なんとかしなくては……!」


 咄嗟に考えを巡らせるが何も思いつかない。

 ここまでミニモに居て欲しいと願ったのは初めてかもしれない。

 もし俺に治癒魔法が使えたなら。もし多少なりとも傷をごまかせるようなスキルがあれば--


 そもそもが理不尽じゃないか。あのドラゴンは倒せる見通しが立っていたはずなのだ。それを、剣で叩き切ると爆発が起こるだなんて誰が予想できる?その爆発でここまでの重傷を負うことになるなんて誰が予想できる?

 それに、俺は恨まれるようなことをした覚えは無い。そりゃ確かに後ろめたいことだってしてきたがそれは俺が今までやられてきた分の復讐という形だったはずなのに。

 それを、なんで……!


 あぁ、冷静さを欠いてはいけない。怒りを抑え込むのは得意じゃないか。冷静に物事を判断しなくてはならない。

 強く握りしめた拳のせいで手のひらが痛いが、むしろそれが正気を保たせてくれている。


 俺は怒りを押し込めて、冷静な口調で言った。


「……おい、とりあえずあのドラゴンから逃げつつミニモを探すぞ」

「い、いや、それは分かるけどよ、流石にちょっとここから逃げるのは無理があんじゃねぇか?」

「やるしかないだろ。俺もお前も治療なんて出来ないんだから」


 ミニモ、そう。ミニモなのだ。あいつが居ればこの程度の傷なら治してもらえるだろう。そんな確信があった。


 そもそもあいつなら既に状況を察して俺達のところまで向かって来ていても不思議でも何でもない。だからすぐに合流できるに違いないのだ。

 俺はそんなことを自分に言い聞かせていた。


「……エテルノ、大丈夫だから一旦下ろしてくれるかい?」

「フ、フリオ?!大丈夫なのか?!」

「うん、まぁ……」


 抱えていたフリオがうめき声をあげながら目を覚ます。一言何かを言うだけで辛そうにしているのだが、本当に大丈夫なのだろうか。


「ええと、とりあえず……」


 小さな声でフリオが言う。一言も聞き漏らすまいと俺は耳をフリオに寄せた。


「あのドラゴン、爆弾と融合してるね……」

「……ほんとか?」

「うん、ほんと……」


 予想もしない発言に、またもや俺は混乱してしまうのだった。


***


「で、爆弾が融合してるっていうのはどういうことなんだ?」

「そのままだよ。多分ちょっとでも衝撃があったら爆発する感じだね……。多分首以外の場所にも爆弾がびっしり、って感じかな」

「そんなの倒しようないじゃんか?!」


 アニキの言葉にフリオが頷く。

 魔獣の死体を融合させて強化することができる、というのが俺達の共通認識ではあったが、そうか。爆弾を魔獣の体内に融合させておくこともできるのか。


 自爆覚悟で攻撃してきたとしても、向こうは自爆したところで後々再生できる。理不尽極まりないが強力な作戦だな。

 あの死霊術師の男では思いつきそうにない作戦ではあるが、思いのほか頭は良かったらしい。




 現在、俺たちは物陰に隠れていた。フリオは自身で動けるような状況ではなかったため俺が抱えてここまで運んできたが、今は壁にもたれかけさせている。

 喋れてはいるものの荒い息をしているフリオ。心配ではあるがあのドラゴンを切ってみた感覚や、今後どうするかを聞かなければならないのもあって休んでくれとも言い出せないのが残念でならない。


「しかしあれだな……爆弾が仕込まれてんなら無理に収納もできねぇな。既に避難している奴らに被害が出るかもしれねぇ」

「そうだな。下手なことをすると収納空間で爆発、なんてことになりかねない」

「……うーん、詰んだね……」

「だな。ここはやはり、急いでミニモに合流してその後町の住民の救助をするべきか……」


 あのドラゴンを今倒せなかったのは残念だ。だが、命を賭けてまで焦ってあのドラゴンを倒しに行く必要はない。

 別に後々にでもグリスティアやミニモを連れて再戦しにくればいいのだから。グリスティアの魔法であれば一方的に打ち込めるだろうし、ミニモが居れば無茶をしても問題ない。


 だから、今はドラゴンを倒すことより今は町の住民の避難。どう考えてもそちらが優先だ。

 

「フリオ、異論はあるか?」

「いや、無いよ。僕も動けそうにないからね……。手間をかけてごめんね」

「気にするな。まさかドラゴンの首に爆弾が仕込まれてるだなんて誰も思わないからな」


「--あれ、フリオ君?!ど、どうしたんですか?!」


 聞き覚えのある声。フリオの姿を見て向こうから駆け寄ってきたのはテミル。

 フリオと同じ孤児院出身、今は劇団に所属しているという少女だ。


 そんな少女の姿を見てフリオも驚いたように声を上げる。


「テミル?!なんでこんなところに!こんなところにいると怪我するよ?!」

「フリオ君の方が怪我してますよね?!」


 うん、間違いなくそうだな。

 テミルは少し服が土ぼこりで汚れている程度で傷は負っていないようだ。

 広場の時もそうだったがこいつはおそらくどんくさいタイプの人間だからな。また逃げ遅れたようだ。


「……まぁいい。テミル、フリオの怪我を治療するためにミニモを探してるんだが見かけなかったか?」

「ミ、ミニモさん、ですか……?ごごごごめんなさい!まだ見かけていないというか私が見逃しちゃってるかも可能性もあるんですが……!」

「いや、心当たりがないなら良いんだ。じゃあとりあえずお前も--」


 --テミルも、アニキの収納空間に避難していろ。そう言おうとした時だった。

 テミルの放った言葉が場の空気を一変させる。


「……あ、私ミニモさんの居る場所は分からないですけど怪我をした人用の救急医療セットがある場所なら知ってますよってうわ?!」

「本当か?!今すぐ向かうから教えてくれ!」

「エテルノ……そんな大声出したらテミルも怖がっちゃうよ……」

「あ、そうだな。すまない。焦りすぎた」

「い、いえいえ!お気になさらず……」


 こうして俺たちはテミルに案内を頼むことになった。

 道中ミニモが見つかれば儲けもの、怪我人が居ても見つけ次第避難させる。

 作戦は中々思い通りに進んでいないがこの調子で頑張ろうじゃないか。

 そんなことを思いつつ、俺はもう一度フリオを担ぎ上げたのだった。

本編は急展開真っ只中ですが。

気づいたら30000PV超えてました!いつも読んでくださりありがとうございます!

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