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壊れた街並み

「おい、誰かいないか?!」


 瓦礫の散らばる道を足を取られないように気を付けながら走る。

 今のところは多少の怪我人がいたぐらいで重症者は見つかっていない。避難が間に合っていたのは喜ばしいことだな。


 とはいえここまで町が壊されている時点で喜べる状況でもないのだが。


 フリオが損壊の激しくない家屋の屋根の上を駆け、俺とアニキで地上を走って怪我人を見つける。

 この分担によって、俺たちはここまでに何人もの住民を保護していた。


 怪我人は見つけ次第アニキが収納。その後どこかでミニモと合流して治療を受けてもらうという流れだ。ミニモがどこにいるのかは知らないがそのうち合流できるだろ多分。


 なお、俺は探知魔法も併用することで更に発見率を上げていた。


 と、ここで屋根の上から捜索をしていたフリオが俺たちに声を掛ける。


「エテルノ!十二時の方向だ!」

「了解!」


 フリオの指示通り、そこには倒壊した家屋に足を挟まれた女が居た。そのすぐそばには怪我していないように見える少女。

 少女の方は十歳ぐらいだろうか、泣きながら女性の傍から離れようとしない。

 おそらく親子だな。


 ま、それは俺には関係のないことだ。俺はいつも孤児院のガキどもにしているように声を掛けた。


「おいガキ!どうした?!」

「ひっ……!」

「エテルノ、そういう言い方は良くないよ……」


 ふむ、怖がらせてしまったか。

 逃げて物陰に隠れてしまった少女からフリオへと視線を移す。


「とはいえこちらも急いでいるのでな。こんなガキ一人に時間をかけるような真似は……」

「いや……だとしても言い方ってものがあるだろうよ……」


 ……。

 じゃあもう良い。後はアニキにでも任せればいいだろう。

 アニキにバトンタッチすると、俺は周囲に取り残された人間がいないか探し始めた。


 少しその場から離れたところにいる俺の耳に、アニキが少女に喋りかけている声が聞こえてくる。


「いいか嬢ちゃん、さっきの怖い奴はあとで俺がとっちめておくからな。嬢ちゃんのお母さんも大丈夫だ。あとでしっかり治してやる」

「……は?」


 アニキの言っている怖い奴って言うのは……俺のことか?俺のことだな、多分。


「良いか?今この町にはさっきの奴よりももっと悪い奴がたくさん来るかもしれないんだ。だから悪いけど避難してもらわなくっちゃならない」


 アニキの言葉に頷く少女。それで避難に応じられるのは俺としては結構複雑な心境なのだが?


「おいアニキ、こっち見てみろ!」

「へ?」


 出来るだけ声を張ってアニキをこっちに振り向かせてから俺は行動に移った。

 手を伸ばし、呪文を唱える。別に標的に近づいて使ったって良いのだがこの距離なら問題ないだろう。


「え、エテルノ?何黙って……お、おいお前、まさか魔法を……?!」


 察した様子のアニキ。中々良い勘をしているな。この距離では呪文を唱える声なぞ聞こえないだろうに。


 ま、良い。俺は迷うことなく貯めた魔力を解き放ち、魔法を使った。


「さ、さっきのは言葉の綾だってえええぇぇ?!」


 頭を抱えてうずくまるアニキ。しれっと横に居た少女も抱え込んでいるあたりこいつは本当になんというか……。


 魔法は逸れることなく標的に命中し、俺はアニキたちに声を掛ける。


「おい、終わったぞ」

「へ?」

「へ?じゃないだろ。さっさと収納するんなら収納しろ。ここら辺にはもう逃げ遅れはいないようだから次に行くぞ」


 アニキたちの背後、少女の母親の足が挟まれていた木材の下に隙間を作り出した。

 と言っても、土魔法で少しだけ地面を陥没させて母親の足が引き抜けるようにした程度だが。


「なんだ?まさか俺が人に向けて魔法を撃ちこむとでも思ったのか?」


 俺の言葉に、アニキは怪訝な目をすることで返答したのであった。


***


「さて、じゃあ次の場所行くか」


 無事にアニキが二人を収納し、探索を再開しようとした時だった。


 ふと、空から黒い影が差した。


「……来たか」


 俺が外に居ればあの死霊術師の男は俺を狙ってくるだろうと考えていた。その予想通り、来たわけだ。


 べちゃり、と汚い音を立てて一塊の肉が空から降ってくる。

 どす黒い色をした血やらなにやらが雨のように降り注ぎ、辺りを鼻にツンと来る臭いや腐敗臭が満たして『それ』は咆哮を挙げた。

 長さの揃わない乱杭歯に破けた翼。

 なんでそんなんで飛べてるんだよお前。


 あありにも現実味の無い敵を相手に、俺はそんなくだらないことを考えていた。


「……この町をこんなにした元凶のお出ましだね。準備は出来てるかい?」

「ああ。当たり前だ」


 剣を構えるフリオと俺、アニキはスキル以外に戦う手段が無いために後衛待機。


 さぁ、ドラゴン狩りと行こうか。


***


 ドラゴンの不格好な前腕が振るわれ、それを高く飛ぶことによって避ける。

 前腕から滴る汚い液体が顔に飛んできたので手で払ってやる。


 と、そんなことをして様子を見ていたら俺と同様に高く跳んだフリオから声が掛かった。


「エテルノ、僕はそろそろ行こうかと思うけど行けるかい!?」

「あぁ!こいつ、図体はでかいかもしれないが動きは鈍いな!回避だけであれば何の問題も無い!」

「よし、倒し方は分かってるね!?」

「当たり前だ!」


 倒し方、それはここに来るまでの道中立てた作戦の一部だ。本来であればいくら斬撃を浴びせようとも倒せない魔獣。

 それが死霊術で生み出された魔獣であるが、俺たちは既に倒し方を編み出しているのだ。


 つまり魔力が遮断された空間に閉じ込めることが肝なのである。

 そして今俺たちは異空間に収納するスキル持ちのアニキを連れてきている。


 そう。このドラゴンを収納するだけで俺達の勝ちは確定するのだ。


 一応、すでに収納空間に避難している人々に影響が無いのかとは聞いたが問題は無いらしい。

 死霊術の魔獣たちは収納空間に転移させた時点で体が崩れ落ちるからな。


 そんなわけで--


「まずは収納しやすい様にドラゴンの体をぶつ切りにする、だったな!」

「うん、その通りだ!」


 アニキのスキルには狙いをつける手間が必要になる。狙いをつけている間に空に飛び上がられたりしたらたまったものじゃないからな。

 ドラゴンの体を解体して、再生に手間取って動けなくなっているところを収納。完璧な流れだ。


「エテルノ!頼んだ!」

「分かった。任せろ!」


 フリオを上空に打ち上げる。

 簡単な重力操作魔法と土魔法の応用なのだが、上手くいったようだな。


 安心する俺は上空を見上げる。

 フリオが剣を構え、ドラゴンの首に剣を叩きつけ--




 直後、鼓膜が破れるかのような轟音とともにフリオの全身が爆炎に包まれた。

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