飛び出す。
「--つまり爆発したのは貴方たちのせいではない、と……」
「えぇ、そうです。申し訳ないんですが、犯人を突き止められるよう協力をお願いしたいと……」
「構いませんよ。Sランクパーティーの方の願いとなれば協力は惜しみません。フリオさんにはお世話になってますし……」
フリオが話しているのはこの宿の主人だ。爆発についての事情説明を求められたのでフリオが話しているのだが、思いのほか俺たちが疑われるようなことにはなっていない。
フリオの日ごろの行いが信用に結びついているんだろうな。
宿屋の主人も、自分の宿の一室が吹き飛んだというのに呑気なものだ。
不安がる様子はあれど、パニックに陥るどころか時々笑顔すらも見せる。
「で、怪しい人物が来なかったかでしたよね?昨晩は誰も部外者はこの宿には入って来ていないはずですが」
「そんなはずは無い。誰かしらが爆発物を仕掛けたはずなんだ」
だが、それ以降に行った住民への聞き取りでも怪しい人物は浮上せず……といったところなのだった。
***
「何も手がかり掴めなかったな……」
「ですねぇ」
最後の住民に聞き取りを終え、何の手がかりも無いことに嘆息して俺とミニモは椅子の背もたれにもたれかかった。
「しかしあのローブの男……何者なんだろうな」
「ほんとですよね。せめてあの帽子さえなければ顔を確認して指名手配、みたいなこともできるんですけど……」
「そこが問題なんだよな。なんか知らないけど俺のこと恨んでるし……」
あのローブの男、深く帽子を被っているせいでいまいち顔が見えないんだよな。
俺のことを恨んでいそうな様子からも、俺の知り合いだとは思うのだが……。
……やはり分からないな。何度考えても死霊術を使っていた知り合いなぞいないし、そいつに恨まれる原因も思い当たらない。
「さてさて、どうしたものかな。やることが多すぎて何が何やら……」
そんなことを言っているのはフリオだ。
そういえばやることというか、報告しなくてはいけないこともたくさんあるのだった。
「とりあえずギルドにでも行くか?死霊術師の男について報告しないといけないことも多いだろう」
「あぁ、そうだね。町の地下に結構敵が潜んでそうなこととか色々報告しないといけないや」
「とはいえここを放置していくのもな……まだ聞き取りは続けたいところなんだが……」
ギルドに報告するほうがおそらく優先なのだが、今は俺の命を狙って来てるやつの手がかりを掴みたいんだよな。
「あ、じゃあ私が聞き取りをしてましょうか?」
「え、いいのかい?」
「まぁ暇だったし、ギルドに行くんならフリオとエテルノが行ったほうがいいでしょ?」
グリスティアからの提案。率直に言うと非常に助かるな。
グリスティアに任せるならミニモに任せるよりもよほど安心感があるし、任せてもいいかもしれない。
フリオも俺と同じ考えだったらしく、グリスティアの言葉を聞いて頷いた。
「じゃあそうしようか。エテルノ、早速行きたいんだけど大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。……そういえばアニキも連れていくべきだな」
「……え?俺も行くの?」
「当たり前だ。行くぞ」
アニキもそこまで関係があるというわけでは無いのだが、今のところ死霊術で動く死体を無効化できる唯一の存在だからしょうがない。
まぁそもそもがアニキのスキルは規格外に使い勝手がいいというのもある。そういう事情もあって同行するとしたらアニキなのだ。
「よし、それじゃあ今日も行こうか。いざギルドへ!」
こうして俺たちは、もう何度目かも分からないギルドへ向かうことになったのだった。
***
「さて、聞き取り始めようかしら……」
「そうね。今は私もいるんだから安心して良いわよ!」
「グリスちゃん、私もいますよ!」
私たちはフリオに頼まれて、即席で聞き取り調査を行うグループを作っていた。
ミニモと私でやろうとしていたところにシェピアも加わってきて計三人。
リリスちゃんとフィリミル君が私たちが聞き取りを行う部屋まで案内してくれるので計五人とも言える。
「ねぇグリスティア、私ちょっと思ったんだけど……」
そんなことを言ってシェピアがにやりと笑う。
……彼女がこの顔をする時、たいてい後にくだらない言葉が続くのを私は知っている。
「これってちょっと探偵みたいじゃない?楽しくなってきたわよ!」
「やっぱりそういう話題なのね」
「あら?バレてた?やっぱり私たちの友情というか何と言うかが働いて」
「ないですね」
ばっさり切り捨てるミニモ。この子はエテルノがいないところだとたまに容赦ないわよね。
ミニモの言葉に動揺しているシェピアと、普段通りのミニモ。
うーん、部屋が吹き飛んでるのにやっぱり緊張感が無いのよね。
と、そこにリリスちゃんが戻って来た。
「グリスティアさん、次の人連れてきましたよー」
「ありがとうリリスちゃん!」
リリスちゃんが連れて入ってきたのは三十歳くらいの青年。帽子を被って、首にかけたタオルで汗を拭いている。
「こちら、配達員の人です。昨晩エテルノさんの部屋に届け物をしてくれたそうで……」
「え、夜に?」
「はい、しかも深夜にエテルノさんの部屋に手紙を置いていったらしいんですけど……」
手紙、というのは怪しすぎる。えっと……なにから聞けばいいのだろう。
「その手紙ってどのくらいの大きさでした?」
「えっと……普通の茶封筒ですね。ドアの下の隙間から部屋の中に滑り込ませましたよ」
茶封筒だとしても、中身次第では爆発が起こるように魔法を仕掛けておくのは簡単だ。
何かの条件で魔法が発動する、というのはエテルノも好んで使う手だから、仕組みについては良く知っている。
「でも、『これを届けてくれ。ただし真夜中にだ。』なんて指示が来たんで驚きましたよ」
配達員の人は話を続ける。そこにシェピアが帰ってきて言った。
「ドアから少し離れたところが爆発の中心だったわ。やっぱり滑り込ませた封筒が、ってことで合ってるんじゃないかしら?」
「……そうね。じゃあえっと……その封筒の差出人って分かりますか?」
「えっと確か……ギルドの人、だったかな?」
ギルド。その言葉を聞いた瞬間ミニモが飛び出した。走って向かう先は窓。一体何を--
次の瞬間、ミニモがガラスに突っ込む。砕け散るガラス、その中をミニモは、外へと飛び出していった。
「……えぇ……」
……いや、うん、確かにエテルノ達はギルドに向かったわけだから危ないんだろうけど……玄関からでも良かったんじゃないかしら?
ミニモの速さについていけなかった私達だけが、呆然として部屋の中に残されるのだった。




