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復讐の×××

「フリオの話でしたね。僕もそこまで詳しいわけじゃないので、詳しくは話しませんよ?」

「いや、それでも構わない。多少なりフリオの噂については知っておきたくてな」


 グリスティアが『誰かを踏み台にして成りあがった嫌な奴だ』などと噂されていたのには理由があった。ミニモの悪評もまぁ……自業自得感はあったが確かに理由はあったのだ。

 であれば、フリオの噂にも理由があるはずだ。火の無いところに煙は立たないというしな。


 フリオの噂は『他人を見下す嫌な奴』だ、というものだったと思うがそこにはいったいどんな過去があったのか。

 今後、俺がパーティーを追放される作戦に使えるかもしれない、という意味でもこの場で聞いておきたかったのだ。


「まぁそこまで言うなら、ですが……」


 こうしてディアンはフリオの噂について語りだしたのだった。


***


「そうですね……何から話したものか。まずは冒険者間での話だけですけど……フリオは、『他人を見下すような奴』だという風に言われてますね」

「それは知っているんだが、フリオと喋ったことがあるなら皆そんな風には思わないんじゃないか?」


 ここが一番の問題だ。フリオの人柄は一度接すれば分かるはずなのに未だに悪い噂が尽きないのは何故なのか。

 そんなことをディアンに問うと、彼はこう答えた。


「さぁ、なんでなんでしょうね。少なくともこの近くのギルドでは彼のことを悪く言う冒険者はもういないのは確かですが……」


 しばらく黙り込んだ後、ディアンは口を開いた。


「ですが、噂は本当のことですよ。人によって彼が付き合い方を変えているのは事実です」

「……」

「彼を信用するかどうかは貴方自身が決めればいい。ただ、彼が聖人のような人格者だとは思わないことです。どんな聖人にも後ろめたいことはありますし、聖人が必ずしも社会的に正しいとは限らないんですから」


 噂は本当のことだと、そうディアンは口にした。つまりフリオが人を見下しているのは本当のことだと、そう言ったのだ。


 俺はその言葉に何も返せずにいた。


 俺はフリオのことを聖人のような性格の奴だと思っていたのだから、反論をしようと思えば出来るはずだった。

 だがそれができなかったのは、ディアンの言葉に『実感』がにじんでいたからだ。


 俺にはどう考えても、ディアンはフリオの噂の根底までを知り尽くしているように思えてならなかったのだ。




 黙り込んでしまった俺の様子を見てディアンは口を開く。先ほどまでの口調とは打って変わっておちゃらけた口調だ。


「さて!それじゃコレ、出して貰いましょうか!」

「え?」


 ディアンが俺の方に向かって手を差し出してきたが、何をしろというのだろうか。


「……なんのことだ?」

「え、分かんない?お金ですよお金!」


 お金お金、と連呼するディアン。そういやこいつこんな奴だったわ。

 先ほどは真面目な口調だったために騙されかけていたが、こいつの方がフリオよりもやばいんじゃないか?


「そうだな、じゃあ情報料は払ってやろう」

「え、良いんです?冗談のつもりだったんですけど」

「だがその代わり、お前も情報料を払ってもらうぞ」

「……何の?」


 ディアンは不思議な顔をしている。そうか、分からないなら教えてやらなくてはなるまい。


「俺は死霊術への対抗方法を教えたよな?フリオの噂なんかよりもよほど価値のある情報だったはずだぞ?」

「うぇえ……貴方結構がめついですね……」

「お前には言われたくないわ」


 もちろん、俺たちは金のために情報を提供したわけでは無い。

 そもそもダンジョン攻略に参加したおかげでそこそこの金は持っているのだ。

 こんな情報でわざわざ金をせしめるよりも、タダで情報を渡してやって貸しを作っておいた方がいいに決まっている。


***


 その後、ディアンが折れて金の取引はしないことになった。

 まぁフリオの噂についてはもっと詳しく聞きたいところではあったが、ディアンはこれ以上話しそうになかったから諦めるとしよう。

 気になるならもっと別のやり口で調べればいいのだ。


「じゃあ僕は貴方に頂いた情報をギルド全体に伝達してきます。今日はありがとうございました」

「……おう」

「ところで貴方の名前をお聞きしても?」

「あぁ、そういえばまだ名乗っても無かったな。エテルノ・バルヘントだ。よろしく頼……どうした?そんな顔して」


 ディアンが俺の名前を聞いた途端顔を引きつらせる。

 怖がられているというよりは驚いた、といった感じではあったが……。


 だが瞬時にディアンは普段の顔に戻り、こう言った。


「あぁ、すいません。エテルノと言ったらフリオと同じパーティーの人だと聞いたことがあったものですから。フリオの悪い噂を貴方に教えるのも失礼なことだったかと……」

「いや、気にするな。俺もフリオには困らされてるんだ」

「あはは、まぁ彼と一緒のパーティーは大変でしょうね。それでは、頑張って」


 その後俺がギルドから離れ、見えなくなるまでディアンはギルドの入り口に立って俺を見送っていたのだった。


***


「ただいま。ギルドには無事に伝えてきたぞ」


 俺がギルドから宿屋に帰るとそこにはテーブルを囲んで座っている皆がいた。

 

 ミニモやグリスティア、フリオだけではない。アニキもシェピアも、リリスとフィリミルもいる。全員勢揃いといったところか。

 ……あぁいや、サミエラはいないな。あいつは孤児院の運営で忙しいだろうししょうがないところもあるだろうが。


「すまない、待たせたか?」

「今来たところですよ!」


 俺の問いに満面の笑みでミニモが答える。……いや、お前そのセリフ言ってみたかっただけだろ。


「ミニモだけはもっと待たせても良かったな」

「またそんなこと言うんですからー。あ、もちろんエテルノさんが待っていてほしいというのであれば待つのもやぶさかでは無いというかなんならもっと待たせてもらっても--」

「うるさい黙れ」

「急に酷い?!」


 ミニモの話が長くなりそうだったので黙らせると、俺はフリオに話を促した。


「あー、それじゃ。とりあえずエテルノ以外には言っちゃったけど死霊術使いを探しあてる目処が立ったよ」

「本当か?!」


 フリオの言葉に思わず驚いてしまう。骸骨やらなにやらに対処する方法は見つけたものの、死霊術を使っている術者本人を突き止められるとは思っていなかったのだ。


 一体なぜフリオがそんな方法を見つけたのか。どのようにして見つけるつもりなのか。俺は黙って耳を傾けていた。


「って言うのもね。協力してくれる人が居るからなんだ。……お願いするよ!」

「任せるっすよ!」


 バッ、とでも言いたげなポーズで出てきたのはドーラ。リリスのペット兼、元ダンジョンマスターのマンドラゴラだ。

 言うまでも無く俺は疑いの目を向けた。当たり前だ。


 俺の反応を受けて、ドーラは不服そうだ。


「なんでそんな目で見てるんすか!頼りになるっすよねぇ!?」

「いや、お前に期待できるわけないだろ」

「失礼っすね?!」

「僕もそう思ってたんだけどね」

「ちょっとフリオさん?!」


 ドヤ顔をして出てきたというのにフリオに切捨てられ、ドーラは既に涙目である。


「でもドーラは魔力を探知できるんだよ。骸骨に繋がった魔力を辿って、術者を探せるかもしれないらしいんだ」

「そ、そうっすよ!役に立つっすよ!」


 まぁ……元ダンジョンマスターだったんだしそのぐらいは出来るのかもな。

 一応その説明で納得しておこう。


「何となく今後の方針は理解した。それで今日はこれからどうするんだ?」

「今日はこれから、今後の方針を詰めていこうと思うよ。泊りになるだろうから先に部屋割りを決めちゃおっか」

「あ、じゃあ私グリスの部屋に行くわ」

「じゃあ私もー」


 こういうことになった時女性陣の団結力は凄まじい。

 たちまちのうちに女性陣は部屋割りが決まり、男性陣だけがポカンとしていたのだった。


***


 深夜。俺は目を覚ます。


 起きようとしたところ、横に居たフィリミルが目に入った。

 あの後俺たちは作戦会議をし、部屋割りどおりに分かれて就寝する運びとなったのだ。


 俺の部屋に泊まったのはフィリミルとドーラ。

 どうせ何かしら問題を起こすであろうドーラは寝る前に小瓶に詰めておいたので、実質フィリミルと二人部屋だろうか。

 本来ならここに俺のペットのスライムも居たのだが、奴はグリスティア達を筆頭とする女性陣に連れ去られた。

 連れ去られる間際に、表情なんてないはずのスライムから哀愁が漂っていたのは俺の勘違いだったのだろうか。

 ……まぁ後で美味しい餌でもやろう。あのまま何の報酬もないというのも可哀そうだしな。


 思わずため息が出てしまい、起こしてしまったかと焦ってすぐにフィリミルを見る。

 フィリミルは何の変りも無く、床に敷かれた布団で寝息を立てていた。良かった。


「……今何時だ……?」


 フィリミルを起こさないように立ち上がり、時計を確認する。時刻は深夜三時。

 ……もう一度寝るか?


 だが今すぐ寝るのもあれだし、とりあえず夜風にでも当たろうと窓を開けたその時だった。


「ッッ……?!エ、エテルノさん!」


 唐突にフィリミルが飛び起きた。


「ど、どうした?何か悪い夢でも見たか?俺が起こしてしまったならすまな--」

「逃げてください!」


 フィリミルがドーラの入った小瓶を掴むと、俺に向かって飛び掛かってくる。

 唐突のことに俺も防御が間に合わず、先ほど開け放っていた窓から飛び降りる形になってしまった。


「何を……?!」

「エテルノさん!防御お願いします!」

「い、言われなくても既にやってある!」


 落下していることに気づいた瞬間俺は防御魔法を張っていた。これで落ちても何か怪我をすることは無いが……


「何で俺を--」


 --突き落とした、とそう言おうとした時だった。


 轟音がしたかと思うと俺達の背後で巨大な火柱が立ち上り、先ほどまで俺たちが居た部屋が豪快に吹き飛んだのだった。

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