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検証、骸骨の仕組み②

「さて、次は収納したときに骨が砕けてる謎か……」


 しばしの休憩の後、アニキが骸骨を取り出した時になぜか骨粉にされた状態で出てくる問題について確認することになった。

 アニキの収納空間に侵入して確かめてくる、というのが本題なのだが……


「……よし、やはりミニモが行くべきだな!」

「任せてください!」

「エテルノって普段は不機嫌なのにたまーにノリ良いわよね」

「あ?」

「あら、いつも通りに戻っちゃった」


 ミニモを選んだのには一応理由がある。といっても、こいつなら回復を繰り返せば無限に戦えるというくだらない理由なのだがな。


 ……だがよく考えてみると、ミニモも死霊術で動く死体と同じような行動が可能なわけだな。

 本人曰く即死でさえなければ治療が可能らしいし。

 ミニモがたまに、人間離れしているような行動をするのはそのせいなのだろうか。


「一応大事を考えて、ミニモが入った後にすぐ俺たちが入る。何もミニモだけに任せるわけじゃあない」

「そう。単純に、中が危険だった場合生還率が一番高いのはミニモだって言う話だからね」

「私は!無敵ですから!」


 胸を張るミニモ。とりあえず調子に乗っているようなので脳天にチョップをお見舞いしておく。


「痛いですよ?!」

「おっとすまん。髪にゴミがついてたから取ろうと思ってな」

「え、ありがとうございます!」

「本当にゴミがついていたとしてもチョップでは間違いなく取れないよね」


 簡単に騙されるミニモとあくまで冷静なフリオ。かくして、緊張感の無いまま調査が決行されたのだった。


***


「エテルノさーん、こっちは大丈夫そうですよー」


 待つこと数分、一足先に収納空間に入っていたミニモから返答があり、俺達も収納空間に入る流れとなった。

 今更だが収納空間に入るって言い方何か嫌だな。

 元が『収納する』というスキルだからしょうがないと言われればしょうがないところがあるのだが、何か嫌だ。


 もっとこう、『異空間』に入る、とか……


「エテルノ、何を考えているんだい?」

「……呼称名変更の必要性を……」

「よく分かんないけどもう行くよ?準備は大丈夫?」

「大丈夫だ。心配するな」




 アニキの収納空間に入った時、既に大量に収納していたと聞いていた骸骨は見渡す限りどこにもいなかった。


 その代わりに目についたもの、それは骨粉の山だ。広い空間のところどころにアリ塚のように積み重なっている。


「……やっぱり砕けてるな」

「だねー。……しかも再生する様子は無い、って感じかな」


 そう、本来なら死霊術で操られている死体は何があろうとしばらくすれば再生してくるはずなのだ。それが再生しない。

 あまりにも不可解な現状に、揃って俺たちは首を傾げるのだった。


***


 その後様々な検証をした結果、分かったことがあった。


 簡単に言ってしまうと、骸骨はアニキの収納空間に来た時点で再生できずに崩れ去るのだ。

 そして収納空間から出すと再び再生を始める。


 この現象を見て、グリスティアが推測を立てた。


「皆、操り人形って知ってる?」


 そんな言葉からグリスティアの推測は始まった。


「アニキのことか?」

「誰がシェピアの操り人形だ。違ぇよ。シェピアが怖いから従ってやってるだけだかんな勘違いすんな」


 俺が冗談めかして言った言葉にアニキが反応する。

 というか怖くて従ってるならそれはそれで、尻に敷かれている、というのでは?


「そっちの意味じゃなくて、人形劇とかにも使われてる方よ」

「手足に糸がついてて、それを操って動かしてるやつだね。見たことがあるよ」

「そう。私的には死霊術って、操り人形に近い気がするのよね」


 ふむ、死体が術者によって動かされている、という点においては同じかもしれないな。


「だがその場合、糸は何で代用してるんだ?」

「そうね……魔力、とか?」


 死体に自身の魔力をつなげて思い通りに動かす魔術、それが死霊術。そういう説明だな。


「おい、じゃあ収納した場合はつながっていた魔力はどうなるんだ?」


 俺のふとした疑問にはアニキが答えてくれた。


「そうだな……途切れるんじゃないか?あの空間は完全に遮断されてるはずだからな!」


 あの空間に骸骨を収納するとそれまで繋いでいた魔力の糸が切れてしまうため、動かせなくなって骸骨が崩れる……。


 なるほど、説明がつくな。


「グリス、お手柄だよ!これで死霊術に対抗できる!」

「そ、そう?役に立てたなら私も嬉しいわ」

「うん!それじゃあ早速、この仮説が正しいか調べてみようじゃないか!」


 ……え、まだ検証するのか?フリオの言葉に俺は耳を疑う。


「ほらほらエテルノ!ミニモ!早速試そうじゃないか!これで森の魔獣たちも倒せるよ!」

「えぇ……」

「帰りたい……」


 それから小一時間ほど検証した結果、俺達の推論は正しいことが証明されたのだった。

 

 ちなみに、フリオの行動力と冷静な判断力をあれほど恨んだのも初めてであった。


***


 僕は眼前の孤児院を見つめ、ため息を一つつく。

 毎週ここにはやって来てはいるのだが、その度に憂鬱な気持ちになる。


 何も、子供が嫌いなわけでは無い。むしろ子供は好きだしここの孤児院も気に入っている。相当に恩義も感じているし何とかこの孤児院の助けになれば、と行動もしてきた。


 だがそれでも、僕が起こした行動だけでは何も変化が感じられない。

 自身の無力さに嫌気がさす。


 もう一度、僕は息を吐き切って気持ちを切り替えると孤児院の扉を叩いた。


「こんにちはー。強盗だ開けやがれー」


 はーい、と間の抜けた返事が孤児院の中からしたかと思うと、バタバタと足音がしてドアが開けられた。


 ドアを開けてくれたのは僕の腰まで届くか届かないかぐらいの身長の赤髪の少女だ。手にはぼろぼろのぬいぐるみを抱えている。

 そんな彼女は僕の顔を見ると嬉しそうに顔をほころばせると僕の腰に抱き着いてきた。


 少女の頭を撫でながら僕は言った。


「こら。変な人が来たらドアを開けちゃだめだよって言っただろう?」

「それ自分で言うのー?」


 疑いの目を僕に向けてくる少女。

 失礼な。僕だって僕が少し変わっていることぐらい分かっているさ。

 

「そもそも強盗は、開けやがれーだなんて言わないと思うの。そんな変なことを言う人なんてお兄ちゃんだけに決まってるでしょ?」

「うーん、参ったな……」


 この少女の中では僕はどんな印象になってしまっているのだろうか。


「あ、お母さんはもうすぐ来るって言ってた!」

「そうか。今の時間は皆のご飯を用意してるんだったね。忙しいところに来ちゃって悪いことをしたかな?」

「ううん、お母さん喜ぶよ!最近はフリオお兄ちゃんしか来てなかったから!」

「……そうかい?まぁフリオは律儀だからなぁ」


 と、パタパタと音を立てながらこちらに向かってくる人影が孤児院の奥に見え始めた。


 走ってきたのはこれまた、小さな少女。エプロンを身に着けて手にはお玉を持っている。

 所々がすすけた白髪が彼女の生活の不自由さを物語っていた。


 ……いや、少女というのは間違いかもしれない。実のところ彼女は僕よりもよほど年上なのだ。


 サミエラ。彼女はエルフの血を引く、この孤児院の経営者である。

 僕やこの孤児院の出身の皆にとっては母のような存在でもある。


 僕は気軽に彼女に手を振った。


「やぁサミエラ。忙しいところごめんね」

「む、気にするでない!ご飯を振る舞う相手が増えることは良いことなんじゃからな!」


 うん、やっぱり彼女はいつも通り元気だ。僕が彼女の髪についたすすを払い落すと、彼女の長い耳が震えた。


 その耳を見てつい呟く。


「……この耳ってさ、三角定規みたいに使えそうだよね」

「何を言うておる?!」


 ま、冗談だけど。先ほどの赤髪の少女を抱き上げると、僕は孤児院の中に入った。


「さ、ご飯なんでしょ?僕も用意手伝うからさっさと済ませよう!」

「まぁ、いいがの……。おっと、それよりも言わなければならんことがあったのう?」

「ん、何?」


 僕が聞き返すとサミエラは微笑む。

 いつものような優しい声で、彼女は言うのだ。


「お帰り、ディアン。お主の帰りを待っておったぞ!」


 ……何というべきだろうか。お帰り、ではない。僕はここに帰って来たわけでは無いのだから。

 でも一応、彼女が求めている回答を返すことにする。


「うん、ただいま」


 心に湧きだした複雑な感情を押さえつけて、僕は出来る限りふざけた態度でサミエラと言葉を交わすのだった。

死霊魔術を簡単に言うと、

魔力→電波 死体→ラジコンって感じです。

アニキに収納されると電波が途切れるので、操作できなくなってただの死体になります。

再生能力も無くなるので、元々の状態が骨粉だった死体はただの砕けた骨に戻ってしまう訳ですね。

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