死霊術によく似た
「さて、僕のスキルの話なんだけど……」
窓際の席に座り、フリオがため息をつく。
窓の外ではもう既に太陽が沈み、星が輝き始めていた。
「どうした?話しにくいならゆっくりでいいぞ」
「いや、そうじゃなくて……あの、もっとちゃんと興味持ってくれないかい?」
周囲を見渡すとグリスティアは部屋の隅でスライムと戯れ、ミニモは床に這いつくばっている。
現在、黙ってフリオの話を聞こうとしているのは俺一人であった。
「大変よフリオ!このスライムめちゃくちゃ可愛いわ!」
「うん……出来ればスライムはいったん置いといてほしいかな」
「……スライム……」
「そんな雨に打たれた犬みたいな目で見ないでほしいんだけど……」
グリスティアは捨てスライムを拾って来てしまうレベルでスライムが好きだからな。
俺の飼っているスライムを抱きかかえてご満悦である。いや、飼っているというか番犬的な役割をさせるつもりだったんだがな。
なお、グリスはスライムに構うあまりフリオの話を聞けていなさそうである。
「ミニモ、お前は何をしてるんだ」
「え?普通に家探しですけど」
「家探しが普通みたいな言い方してるんじゃねぇよ」
ミニモは部屋のあちこちを行ったり来たりして何かを探していた。家探しは普通じゃねぇからな。
「だって合法的にエテルノさんの部屋に入れたわけですから、今何かしないと損じゃないですか」
お前よく非合法なやり方で俺の部屋に侵入してんだろうが。
「そういえば僕の部屋でもやってたね。何を探してるんだい?」
「へそくりとかですかね」
「なんでフリオは家探しされたのにそんな平然としてるんだ」
「別に持ってかれて困るもの無いし……」
「フリオの部屋ってほんとにベッドと武器しかないわよね」
グリスティアの言ったことに同意するように頷くミニモ、キョトンとするフリオ。
そこまで言われるとちょっとフリオの部屋も見てみたくなるのだが?
「とにかく僕のスキルの話をしようと思うから大人しくしてくれるかい?」
「……スライムは抱えたままでいいなら……」
「うん、もうそれでいいよ……」
スライムを膝にのせて床に座るグリスティア。
じゃああとはミニモを座らせるだけだな。
「おいミニモ、とりあえず座れ。俺が後で食おうと思ってた菓子をやるから」
「え、本当ですか?!」
アニキの店で貰ったものではあるが……まぁめちゃめちゃ食べたいわけでは無いしな。ミニモにやってしまっても良いだろう。
瓶に詰められた飴玉を取り出しながら、ミニモに何個欲しいか聞く。
「三つぐらいで良いよな?」
「うーん、ところでなんですけどエテルノさんって魔法うまいですし剣もできますしカッコいいですよね」
「五つやろう」
「やっぱりエテルノさんってちょろいですよね」
「一つにするわ」
「あ?!い、今の無しで!無しでお願いします!」
ミニモに飴玉を四つ投げてやり、何とか座らせる。
嬉しそうに食べてるな。それがナメクジ系の魔獣の体液を固めた菓子なのはまぁ……あとで教えてやろう。
今はその幸せを噛みしめているがいい!
とりあえずミニモが座ったので、俺はフリオの話を促した。
「よし、それじゃあ始めてくれ」
「うん。じゃあどこから説明したものか……」
そう言うと、フリオは自身のスキルを説明し始めたのだった。
***
「僕のスキルは簡単に言うと、死者を呼び出す物なんだ」
そんな風に話し始めるフリオ。
死者を呼び出す、ということは……
「死霊魔術、ということか?」
「え、でもそれって今回の悪い人が使ってる魔法じゃありませんでしたか?」
「あぁ、それとはちょっと違うんだ。どういえばいいかな……」
死霊魔術は死者の死体を操る魔法だ。そのために、適正さえあれば誰でも身に付けることができる。
とはいえあまりに非人道的な魔法だったため身に付ける方法は秘され禁術として扱われている物なのだが。
これに関しては死体を操る魔法なので、死霊術では『死体』が必要となる。
だが、フリオのはれっきとした『スキル』の一種だ。フリオが疲労する代わりに死体が無くても死者を呼び出して従えることができる。
フリオの説明は、だいたいそんなところだった。
「ふむ……とすると使いどころは限られるとはいえ中々強力だな……」
「でしょ?グリスと二人でパーティーを組んでた時は、たまーに使ってたんだよ」
そういえばミニモや俺がこのパーティーに入る前からこのパーティーは強かったんだったか。
その強さの裏にはフリオのスキルの存在があったというわけだな。
「私もフリオを抱えて帰るのは大変だったから、本当にピンチの時しか使わなかったけどね」
そう言うグリスティア。そりゃそうだ。フリオとグリスティアの体格差なら抱えて逃げるのは相当大変だろう。
「でも死者の使役、なんてあんまりフリオさんっぽくは無いスキルですよね」
「あぁ、確かに」
得られるスキルの種類なんて選べないのは分かっているのだが、多少スキルの種類によって性格が予想できることがあるのは確かだ。
例えば『剣聖』なんてスキルを持っている奴が暗い性格をしていることは珍しい。
基本剣士らしく、快活だったり元気だったり傲慢だったりする。
いや、そもそもスキルを持っている人間の方が稀だからスキルで性格を判断出来るのかどうかは分からないけどな。
「んー、僕としては割と僕らしいスキルだと思ったんだけどね」
「いやいや、フリオさんは優しくて頼りになって、あんまりそういうスキルのイメージはありませんでしたよ!」
「そうかい?そう言ってもらえると嬉しいよ」
「で、スキルの内容は分かったが……それで何をするんだ?」
そもそも、スキルの内容なぞ話さなくても『フリオがスキルを使っている間は動けない』というデメリットさえ教えてもらえれば連携には問題ないのだ。
それをわざわざここまでもったいぶって話すのは……何か訳があるのだろうか?
「さて、それで、なんだけどさ」
フリオがそんな風に切り出す。
「あの森の魔獣たちには、操ってる親玉がいるって言ったよね?」
「言ってたわね。そいつが死霊魔術を使ってるんでしょ?趣味が悪いわよねー」
「そうそう。僕らでそいつが誰が、突き止めちゃおうと思うんだけどどうかな?」
フリオはそう言うと彼にしては珍しく、いたずらな顔でにやりと笑った。




