聖人達の祝勝会
「はい、確かに討伐を確認させていただきました。蜂蜜もこちらでの買取でよろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「ありがとうございます。それでは報酬をご用意いたしますので少々お待ちください」
取引を終え、ギルドの受付嬢が受付の奥へと戻っていく。今回は相当な数の魔獣を倒し、蜂蜜も大量に持って帰ってきたからな。きっと相当な金額がもらえることだろう。
受付嬢との話を終えて、フリオが俺達のところへ戻ってくる。
フリオが基本こういうことはやってくれたからな。俺たちはフリオが受付で話しているのを見ながらのんびりと休憩していた。
「エテルノ、君はもう体を洗って来たのかい?」
「あぁ。サミエラのところへ行ったついでに風呂を貸してもらったんだ。お前らはどうしたんだ?」
「私たちは魔法で水を被ってさっと洗っただけなんですよ……。うう、早くお風呂に行きたいです……」
「へー、そうか」
「そっちから聞いてきたのに興味なさげですね?!」
まぁ正直どうでもいいしな。俺も普通に魔法で済ませれば良かったかな、程度に思うぐらいだ。質問したのも世間話ついでという認識である。
と、ギルドの入り口の方からなにやら騒ぎが聞こえてきた。
「おいお嬢ちゃん、新入りかい?よければ俺たちと飲もうぜぇ?」
「す、すいません、私依頼を受けてるので……」
「そんなこと言わないでさぁ、ちょっと遊ぶだけだってー」
声の方向を見ると少女が冒険者に絡まれている。少女一人に対し冒険者の男たちは三人。
……まぁ、男たちが卑怯だとは思うがよくある光景だな。
ギルドは酒場も兼ねており、ガラの悪い冒険者や酔っ払いがたむろしていることも少なくない。かくいう俺も喧嘩を売られたことがあり、ギルドにはいい思い出がないのだ。
ちなみに俺に絡んできた奴はしっかりとぼこぼこにしておいた。
というか昼間っから酒を飲んでナンパしてるんじゃねぇよ。しかも三人で。
そんな風に思っていると、皆も同意見だったようで不満を口にする。
「ああいう輩がいるせいで冒険者の評判が悪くなるのよねぇ」
「あの女の子、嫌がってますもんね。あの冒険者たちも何人かで囲んで、嫌な人たちです」
「見てられないな。ちょっと僕、止めてくるよ」
フリオが冒険者たちを止めに行った。見たところあの冒険者たちはC級冒険者程度か。
Sランク冒険者であるフリオに言われれば大人しく引き下がる以外にないだろう。
とはいえそれだけでは怒りが収まらなかったのか、女子陣は思い思いに冒険者達をディスっていた。
「ほんと、ああいう人たちって軽蔑します」
「あ、ミニモはナンパされたことあるんだっけ?」
「そうですよ。ほんとめんどくさい人たちでした……」
「分かるわ……。私もSランクになるまでは散々されたから……」
性格はともかく、ミニモもグリスティアも美人ではあるからな。特にミニモなんかは見た目は十五歳程度にしか見えない。ナンパをするには格好の相手なのだろう。
そういえば、ミニモの悪評というのは確か『ミニモをナンパした奴が翌日、ボロボロになって見つかった』という都市伝説じみたものだったな。先ほども嫌悪感を露わにしていたし、こいつはきっと、ナンパやらうざったい絡み方やらが嫌いな人種なのだろう。
……ふむ、どうやら次の作戦が決まったようだな。俺は心の中でほくそ笑むのだった。
***
「さあ飲もう!今日はいくらでも食べられるよ!」
フリオの号令で始まったのは祝勝会だ。ちょっと前にやったばかりだというのに全く、Sランクパーティーというのは豪勢なものである。
今回こなした依頼で受け取った報酬だが、一人一人に分配した後でもかなりの金額が残った。
例えて言うなら……一か月は遊んで暮らせるレベル、といったところか。そこでまたもや、祝勝会をやろうと誘われたので参加することにしたのだ。
「でも、エテルノが参加するとは思わなかったな。君のことだろうから、『疲れた。寝る』とか言って帰っちゃうかと思ったよ」
「俺だって美味いものは好きだからな。参加ぐらいはする」
もちろんそれだけではないのだがな。今回の祝勝会はギルド酒場で行われている。この場所は今回の俺の作戦を実行するのにうってつけなのだ。
今回の作戦、それは『新人冒険者に絡む』というものだ。何故この作戦にしたか?
理由は単純、新人冒険者や女冒険者に絡むような輩をミニモやグリスティアが嫌いそうだったからだ。今回の作戦にあまり深い意図は無い。
だが、新人冒険者に指導を行うのはギルドで推奨されていることでもある。指導の名目で絡みに行けば、何の問題もない行為でパーティーメンバーに嫌われることができる。問題は、すでに時刻が夜であり新人冒険者や女冒険者が来にくい時間だ、ということなのだが……
ま、そうなったらなったで美味いものを食べられるんだから問題ないな。
「エテルノ、君は何を頼むんだい?」
「そうだな……俺たちが卸した蜂蜜を使った酒を用意したようだから、それを頼もう」
「いいね、グリスは?」
「私も蜂蜜を使ったデザートを食べようかしらね。ミニモもそうでしょう?」
「そうですね。私もグリスちゃんとおんなじのがいいです!」
そう、俺たちの取ってきた蜂蜜で酒場のメニューも更新されているのだ。ギルドと直接つながっているからいろいろな料理が日替わりで楽しめる、それがギルド酒場のいいところだ。
今回の作戦は実行できずとも料理は十分に楽しめることだろう。
「す、すいませーん!遅れましたー!」
と、ギルドに男女の二人組が入ってきて受付に向かう。見たところ二人とも十代だろうか、装備からしてEかDランク程度の冒険者だな。
二人とも明るい色をした茶髪で、その所々が泥にまみれていたり服が少し破けていたりしている。
……しかしこの時間にわざわざギルドに来るとは、何を考えているのだろうか。
気になった俺は、一応聞き耳を立てることにした。
「あの、受付嬢さん、次の依頼いただけますか?」
「薬草採取に行っていたのでしたか?そちらをまず確認させてください」
「あ、はい、これです」
「エテルノさん、どうしたんですかー?そんなに女の子を見てー」
「いや、別にそういうわけでは無いんだが……って、酒くさっ!ミニモ、お前なぁ……!」
ミニモは酒を大量に注文しており、すでにがぶがぶ飲んでいる。この調子だと酔いつぶれるんじゃないか?
「ま、ミニモが酔いつぶれても今日は僕が背負って帰るから安心してよ」
「そいつ吐くから気を付けたほうがいいぞ」
前回の祝勝会でもミニモは酔いつぶれており、その際は俺が被害にあった。フリオは綺麗好きだろうからな。その程度の忠告はしておいてやろう。
「それではこちらが新しい依頼になります。討伐依頼になりますが、気を付けてくださいね?」
「大丈夫ですよ!な?リリス?」
「うん、大丈夫」
新人冒険者たちはどうやら、今まで受けていた依頼を終えて新しく依頼をもらったようだ。
よし、こいつらに絡むとしよう。俺の作戦の今回の犠牲者はお前らだ。そっと俺は酒杯を置いたのだった。
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今日はこの後、五時までに続きを投稿したいと思っていますので、良ければそちらもどうぞ!