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ディアン(副ギルマス)

「ふへぇー……疲れました……」


 ミニモがギルドから戻ってきたのは、既に日が落ちた後だった。 

 疲れ切った様子で戻ってくるとすぐに床に寝っ転がる。


「おい、床に寝るな。汚れるだろう」

「うう……厳しいです……私は服が汚れても気にしませんからほっといてください……」

「あぁ、違う。床が汚れるからやめろと言ってるんだ」

「酷い?!」


 ギルドで治療を終えて帰って来たミニモの服にはところどころ血がこびりついていた。

 治療の時についてしまった冒険者たちの血だと思うのだが、宿の床を血で汚すわけにもいかない。


 文句を言いながらもミニモは立ち上がると、ハッとしたように俺を見た。


「そういえばギルドで、エテルノさんのお義父さんと会いましたよ!」


 ……やはり来たか。だが今までの時間で言い逃れは考えてあるのだ。何の問題も無い。


「すまないが何のことか分からないな。俺の親族はここらに居ないはずだ」

「いや、でも匂いが……」

「俺の出身は海を渡った先だ。そんな俺の親がこっちに来てると思うか?」

「んん……それはそうですけど……」


 よし、もう一押しだな。畳みかけて誤魔化しきってしまおう。


「そもそも俺の親は今更冒険者になるような年でもないしな。俺に似た他人だろう」

「うーん、それもそうですね。……あ、生き別れのお兄さんとかそんな線は」

「ねぇよ」

「ですか……」


 というか匂いで判別できる時点でおかしいだろ。こいつ本当に人間か?狼系の獣人だって言われても今なら信じるぞ?


「そんなことよりもミニモ、お前は何でギルドなんかに行ったんだ?」

「あ、それはですね、個別で私に依頼が来たんですよ。負傷者が出るだろうからってディアンさんが」

「ディアンが?」

「はい、まぁ私としても暇だったので構わないかなと思ってギルドで待機してたんですよ」


 となると、ディアンは冒険者たちが森に入るであろうことを予測していた、と。

 ふざけてばかりいる印象があったがあいつ中々優秀だな。


「へぇ、流石副ギルド長ね」

「え?」


 グリスがそれまでの発言を聞いてそう発言した。え、ちょっと待て、副ギルマス?


「誰が?」

「誰って……ディアンさんよ?」


 ……え、あいつ副ギルマスだったのか?


「ディアンさんが偉い人に見えないのは分かるけどねー。でも私も結構お世話になったことあるわよ」

「……早く教えて欲しかったな」


 マズイ。結構偉そうな接し方をしてたかもしれない。

 副ギルマスに目を付けられていたら名を上げようにも上げられないぞ。いや、悪い意味では名を上げられるかも知れないが。


「……謝ってきた方が良さそうか?」

「え、何をしたんだいエテルノ」

「ちょっと面倒くさくなって雑に対応したというか……」

「あぁ、それぐらいなら大丈夫よ。あの人ドМだから」

「俺の中でディアンの印象がどんどん変わっていくんだが?」


 主に悪い方に。

 と、俺達のやり取りを見守っていたフリオがミニモに聞く。


「冗談は置いといて、ミニモ、今日は何人くらい治療したんだい?」

「えっと……大体百人は超えてたんじゃないですかね」


 百人。ギルドに集まる冒険者のうちのほとんどじゃないか。そんな人数が森に入って、怪我をして戻って来たのか?


「……やっぱりそうなるよね」

 

 フリオ曰く。

 冒険者は基本的に『待機』ができないタイプの人間が多い。野心が大きすぎるのだ。


 例えばダンジョン攻略なら良かった。ダンジョン攻略をすることで名声を得て、金を得て。

 前に進むことで自分の力が示せるから冒険者たちは団結して努力していたのだ。


 だがしかし、今回は違った。

 ギルドからの待機命令に従って金が得られるか?名声が得られるか?答えは否だ。

 

 黙って待機しているよりも不死の魔獣たちの秘密を暴き、森を取り戻せればその方がよほど自分の名が売れるのは明白だ。


「実力があるならそれでも良いんだけどね。でも彼らは、Sランクパーティーの僕たちが逃げ帰ってきた時点で敵の実力を測っておくべきだったんだよ」

「で、怪我人が出たら治療するためにミニモを呼んでたんだな」

「そういうことだね」


 ……そうなると、何人か死傷者は出たのだろうか。


「死者はまぁ……出ただろうね。でも冒険者をやってるんだからしょうがないよ。判断を誤った彼らの自業自得だ」

「えっと……?」


 フリオが悲しそうな顔で呟く。が……今の言い方はフリオらしく無かったな。


「フリオさん、大丈夫ですか?」

「え、うん。大丈夫だよ。ちょっと残念だけど、だからと言って今からどうこうできるわけじゃないしね」

「……あ、そういえばフリオのスキルについてはもう教えてもらえるのよね?」

「うん、良いよ。じゃあここで話すのもあれだしエテルノの部屋に行こうか」


 周囲を見渡すと、ところどころに宿屋に帰ってきている人間が居た。ここでフリオのスキルの話をするのは流石にまずい。

 スキルは基本、切り札としての役割も果たす。それを知られるリスクを下げるのは当たり前なのだが……


「だからと言って俺の部屋か……」

「ん、何か不都合なことがあったかい?」

「いや、別に無いけどな……」


 スライムが留守番してるぐらいで。


「エテルノさんの部屋に入れるんですか?!」


 ミニモがそんなことを言うが……お前いっつも勝手に入ってんじゃないか。


「じゃ、僕先にエテルノの部屋に行ってるね」

「お、おう……」


 フリオが俺の部屋へとどんどん一人で歩いて行ってしまったので、しょうがなくついていく。


 フリオのスキル、どんなものなのだろうか。長らく気になっていたことを知ることができると思うと、若干ワクワクしてくるな。


***


「あ、エテルノ、部屋の鍵貸してよ」

「……」


 まぁそりゃそうだ。フリオは俺の部屋の鍵持って無いし。

 俺達が部屋へ向かうと、フリオが俺の部屋の前で体育座りをしていた。

 ……締まらないものである。

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